耐震性に応じて、初動は変わる
この研修で私がいちばん受け取ったのは、被害の数字でも、避難所の課題でもありませんでした。「身の守り方は、全員同じではない」という一点です。
防災訓練で私たちが習ってきたのは、たいてい一種類です。揺れたら机の下。ところが講師は、実物大の建物を揺らす実験の映像を示しながら、それが通用しない家があると言いました。
耐震性の低い家では、机の下に潜ってもそのまま潰される。だから揺れの最初の10秒で外に出るほうがいい——というのが、示された考え方でした。ただし2階にいるときは逆になります。1階へ降りて外に出ようとすると瓦礫に阻まれて間に合わないので、2階にとどまったほうが助かる可能性がある、と。
つまり、同じ「地震だ」という瞬間に、正解が三つに分かれているということです。しかも分岐を決めるのは、その場の判断ではありません。いま住んでいる家が、いつ建った家かで、もう決まっています。
| いま自分がいる場所 | 講演で示された初動 |
|---|---|
| 耐震性が低い家の1階 | 10秒で外に出る。机の下に潜らない(潜っても潰される) |
| 耐震性が低い家の2階 | 2階にとどまる。1階へ降りて外へ、は瓦礫に阻まれて間に合わない |
| 耐震性がある家 | 屋内で身を守る。家具の固定・落下物対策・ガラス対策が効いてくる |
この三分岐を自分に当てはめるには、前提として「うちは耐震性があるのか」を知っている必要があります。そして、その入口は難しくありません。
私は今回、自助という言葉の順番を並べ替えられました。備蓄も持ち出し袋も要らないという話ではありません。被災地の映像を見れば、水が足りていないことに目がいきます。ただ、命が残らなければ、その後の水も食料も使う人がいない。順番は、命が先です。
訓練と、現場が噛み合っていない
講師は災害が起きるたびに被災自治体の災害対策本部に入り、職員の支援にあたってきた方です。その立場から、いまの防災対策と現場のずれが具体的に示されました。
会場では、能登半島地震のとき珠洲市でドライブレコーダーが記録した映像が流されました。揺れが収まったあと、住宅地から避難していく人たちが映っています。指し示されたのは、そこに映っていないものでした。非常用持ち出し袋を持っている人が、ひとりもいない。靴も履かず、裸足で逃げていく人が何人もいる。
それなのに、国や自治体の防災アンケートは「非常用持ち出し袋を用意していますか」と聞き続けている。用意していても、あの揺れのあとで持って出られる人はほとんどいない。1階が潰れれば靴も取れない。散乱したガラスで足を切り、頭を切って逃げてくる。
にもかかわらず避難所の訓練は、受付とレイアウトから始まる。血を流して逃げてきた人の手当てが、訓練の中に入っていない。——形式が実態に追いついていない、という指摘でした。
同じずれは、身近なところにもありました。防災頭巾です。布やウレタンの頭巾で、瓦やガラスの落下から頭を守れるのか。目の前に頭巾とヘルメットが置かれていたら、どちらを手に取るか——という問いかけでした。講師の地元・横浜市では、この提起のあと1年生から順次ヘルメットを配布するようになったそうです。
そして、要配慮者のなかでも遅れているのが子どもと妊産婦だという話もありました。大人用の段ボールベッドは備蓄していても、赤ちゃん用がない。父親だけがベッドで、母子は床。踏まれないように24時間抱いたままの母親がいる。避難所の設備と国の基準で私が調べてきた論点と、まっすぐ重なる話でした。
耐震化は、防災のいちばん上流にある
講演の後半は、耐震化を「命を守る対策」よりもさらに広く捉え直すものでした。家が倒れなければ、その後に起きるはずだった問題が、まとめて起きない。
これは私にとって、考え方の順番が変わる整理でした。避難所の環境改善も、備蓄も、協定も必要です(三郷市の災害協定は67件あります)。ただ、それらはすべて「家が倒れた後」の対策です。上流を止めるほうが、結果として安くて、確実で、まちが残る。
できている自治体が、すでにある
「耐震補強は500万〜1000万円かかる」と思われていることが、進まない大きな理由だと講師は言います。実際には、安価な工法がすでに開発されている。そして、それを制度で後押ししている自治体がある——という具体例が二つ示されました。
私が重く受け取ったのは、金額よりも黒潮町の職員が「1軒ずつ訪ねた」という部分でした。制度をつくっても、周知しても、申請書の前で人は止まります。そこを越えさせたのが、制度ではなく人手だった。これは予算だけでなく、体制の話です。
避難所は、誰が立ち上げるのか
もうひとつ実務的だったのが、ファーストミッションボックスという仕組みの紹介でした。避難所の入口に箱を置いておき、震度6弱以上などの条件で誰でも開ける。中にはカードが入っています。
最初のカードを取った人が、暫定的なリーダーになります。考えなくていい。書いてあることを順にやればいい。ミッション1は「近くにいる5人を集める」。集まったら色違いのフォルダを渡す。渡された人は情報班・生活班などの暫定的な班長になり、そこにもやることが書いてある——という設計です。
なぜこれが要るのか。従来の避難所運営は、あらかじめ役割を決めた人がその場にいる前提で組まれています。しかし災害時、その担当者が必ずいるとは限らない。役割を知らない住民だけが集まったとき、運営は止まります。理想は住民全員が防災士になること。でも現実はそうならない。だから「訓練に出たことがない人でも、その場で読んで動ける」形にした、という説明でした。
会場からは、三郷市には「避難所開設キット」がある——という前提での質問が出ました。学校の鍵は誰が開けるのか。校長や市職員が到着するまで、その場にいる人は待つことになるのではないか。という論点です。
答えとして示されたのは、二つのやり方でした。ひとつは、防災行政無線で暗証番号そのものを放送してしまうという方法。誰でも開けられて構わない中身にしておけば、日頃から番号が知られていても困らない、という考え方です。もうひとつは、鍵を預かっている人の居場所を、箱の中に地図で入れておく方法。その人が不在でも探せるよう、置き場所まで具体的に書いておく、と。
「キットがあるかどうか」ではなく、「担当者が来る前に、その場にいる人が開けて動けるか」が問われている——という整理です。三郷市の避難所開設キットが、どちらの前提で作られているのか。これは私が確かめる番だと思っています。
なお、この仕組みは危機管理教育研究所と自治体が公開しており、導入に費用はかからず、出典を明記すれば各自治体が自分で作ってよいとのことでした。愛知県内をはじめ導入が広がっている、と紹介されています。
議員は、災害時に何をしないほうがいいか
演題の後半は「議員の役割」でした。ここで語られたのは、活躍の仕方ではなく、邪魔をしない仕方だったと私は受け取りました。
| 場面 | 講演で示されたこと |
|---|---|
| 要望の出し方 | 首長や職員は、議員一人ひとりから個別に言われるのがいちばん困る。要望は議会として取りまとめて出す |
| 平時の準備 | 災害時に議会がどう動くのかの方針を、平時のうちに決めておく |
| 会派を超えて | 災害時は政党・会派の別なく協力する。被災地では「あの人とは一緒に動けない」が実際に起きていた |
| 行政職員に対して | 職員は同時に何十もの案件を全力で回している。「何をやっているんだ」ではなく、町内会でできることは町内会で引き受ける |
益城町の現場で、災害時にもかかわらず「来年の選挙があるから動けない」「あの人とは一緒に動けない」という言葉が実際にあった、という話がありました。平時にイメージするのは簡単で、非常時に初めて真価が問われる——という指摘は、耳に痛い部類の話でした。
私は災害時の発信について、あらかじめ自分の指針を書いて公開しています。今回の話を聞いて、そこに「要望は個別に持ち込まず、議会として束ねる」という項目を足す必要があると考えました。議員の職責の一部として書き足します。