紙のコストは、紙代だけではない
コピー用紙そのものは1枚1円程度。しかし印刷機のリース・トナー・保管・廃棄まで含めると、1枚あたり約5円かかります。さらに見えないコストとして、印刷・製本・配布・ファイリング・探す時間という「職員の時間」が消えていきます。
前提を動かしてみてください
職員数は公表値(令和7年4月1日・984人)を初期値にしています。市の電子決裁の現状の導入状況・決裁率は公表資料で確認できていないため、情報公開・決算審査で確認のうえ実態に合わせて更新する前提です。それ以外の前提は一般的な試算値です。あなたの感覚に合わせてスライダーを動かすと、結果がその場で変わります。
① 庁内の印刷コスト
紙・印刷・保管の直接コスト320万枚 = 約12.8トンの紙 = 立木換算で年間約307本分。CO2に換算すると年間約22.4トンで、杉の木約1,600本が1年に吸収する量に相当します。
② 職員の「紙に使う時間」
印刷・製本・配布・押印回覧・ファイリング・探す時間この金額分の人件費が減るわけではありません。職員を減らすためではなく、窓口対応・相談業務・政策立案など「人にしかできない市民サービス」に時間を振り向けるための試算です(削減率①と連動)。
③ 議会資料の紙、希望者は有償に
原則デジタル配信・紙で受け取る場合は手数料三郷市議会では、議案書・予算書などの議会資料はいまも全議員に紙で配布されています。原則をデジタル配信に切り替え、紙で受け取りたい議員は実費と事務コストを反映した手数料を負担する制度にした場合の効果です。
金額の規模は庁内全体(①②)より小さいですが、議会が率先して変わることに意味があります。議会が紙のままで、行政にだけデジタル化を求めることはできません。なお三郷市議会の会議規則では、議場へのPC・タブレット持ち込みは明文で禁止されていません(note: 実は禁止されていない説 →)。
市民サービスは、こう変わる
ペーパーレス化の本当の価値は、節約額より「派生効果」にあります。紙を軸にした仕事の流れをデジタルを軸に組み替えると、市民から見える市役所はこう変わっていきます。
これらは紙をやめれば自動的に起きる変化ではなく、業務の流れをデジタル前提で組み直して初めて実現します。だからこそ「紙の置き換え」ではなく「文化の転換」と呼んでいます。セキュリティの考え方は ゼロトラスト行政 → を参照してください。
デジタル文化を、庁舎の外へ
紙からの解放は市役所の中だけの話ではありません。学校の先生と、報告や申請をする市民。この2つに広げたとき、「浮いた労働の時間で何ができるようになるか」が本当の派生効果です。
学校現場 — 先生の時間を、子どもに返す
国の調査では、教員の平日の在校時間は小学校で約10時間45分、中学校で約11時間。紙の報告書・調査への回答・保護者向けプリントの印刷と仕分け・朝の欠席連絡の電話対応が、その時間を削っています。 欠席連絡のアプリ化、プリントの配信化、調査のオンライン回答、押印の廃止——校務のデジタル化はすでに全国で始まっています。
三郷市の市立小中学校は全419学級。1学級あたり週1時間の紙事務が減るだけで、市内全体で年間約1.7万時間が生まれます。 教員の人件費は県費で、時間外手当も原則ない世界(給特法)なので、これは「残業代の節約」にはなりません。浮いた時間は、授業準備・一人ひとりの子どもと向き合う時間・不登校対応にそのまま返ります。お金ではなく時間が成果である——ここが庁舎の試算との一番の違いです。
市民の報告 — 市民の時間も、コストである
町会・自治会の補助金実績報告、団体の申請書類、道路の穴や公園の遊具の破損の連絡。いまは平日に紙で書いて、窓口に持っていく場面が残っています。 市民が費やす移動と待ち時間も、社会全体で見れば立派なコストです。
スマホから写真付きで通報できる仕組み(千葉市「ちばレポ」型)なら、24時間受付・現場の位置と状態が正確に伝わる・対応状況が見えるの三拍子がそろい、職員側も現場確認の往復や紙からの転記作業が消えます。 さらに報告がデータで蓄積されると「どの地区に何が多いか」が見え、修繕予算の配分や見回りの優先順位という政策判断に還流します。市民の手間を減らすことと、行政が賢くなることが、同じ一つの仕組みで実現します。
ゼロカーボンシティの、具体的な一歩として
三郷市は2021年4月、埼玉県東南部の5市1町(草加・越谷・八潮・三郷・吉川・松伏)で「ゼロカーボンシティ」を共同宣言し、2050年のCO2排出実質ゼロを掲げています。
宣言を実現する主役は太陽光発電や省エネ設備ですが、市役所が自分の事務から出すCO2を減らすことも市の温暖化対策の柱のひとつです。 紙は製造・輸送・廃棄の各段階でCO2を出します。上のシミュレーションの標準シナリオ(年間320万枚削減)をCO2に換算すると年間約22トン——杉の木約1,600本が1年かけて吸収する量です。複合機の稼働電力や文書保管スペースの空調まで含めれば、効果はさらに大きくなります。
金額では小さく見える取り組みでも、「コスト削減」と「脱炭素」の両方に同時に効くのがペーパーレス化です。ゼロカーボンシティ宣言を、宣言のままで終わらせないための具体策として提案します。
それでも、紙を残すところ
紙ゼロが目的ではありません。「デフォルトをデジタルにして、紙が本当に必要な場面を選び直す」のがこの提案です。
紙を残すべき場面
- 市民向けの窓口書類 — スマホやPCに不慣れな方への案内・申請書は紙を維持。デジタル化はまず「庁舎の中」から
- 災害時・停電時の業務継続 — 避難所運営マニュアル・重要連絡網など、電源が失われても機能すべきもの
- 法令上原本性が求められる文書 — 一部の契約書・証書類(電子契約の普及で範囲は年々縮小)
コストが逆に増える失敗例もあります
札幌市議会では、タブレット導入のリース料により議会関連経費が約126万円から約824万円に増えた事例が報道されました。 高価な専用端末を全員に新規配布する方式は本末転倒です。既存の公用端末と、三層分離の情報セキュリティポリシーに適合したLGWAN対応クラウドサービス等を前提に、システム費を抑える設計が前提条件になります。上のシミュレーターで「システム・端末の年間コスト」を大きくすると、効果が消えることを確認できます。
本当の狙いは、お金より「仕事の流れ」
紙の削減額そのものは、一般会計625億円から見れば小さな数字です。それでもこの提案をするのは、紙をやめるプロセスで「ハンコのための出勤」「紙の回覧待ち」「書庫で書類を探す時間」が構造ごとなくなるからです。 浮いた時間は職員削減ではなく、窓口・相談・政策立案という「人にしかできない仕事」へ。それがデジタル文化への転換の本当のリターンです。そしてこの改革の本体はシステム導入ではなく、文書取扱規程・文書管理規程の全面改定(起案・決裁・保存年限・原本性の再定義)——道具より先に、ルールを書き換える仕事です。
反対意見にも、向き合う
この提案には、もっともな反対意見があります。都合のよい数字だけを並べないために、いちばん強い形の反対論と、それに対するいまの考えを併記します。
反対意見「高齢者などデジタルに不慣れな市民の切り捨てになる」
切り捨てになる設計なら、私も反対します。この提案の対象はまず「庁舎の中」の紙であり、市民向け窓口の紙は残します(上の「紙を残すところ」参照)。
むしろ紙作業から解放された職員の時間を対面サポートに振り向けることで、デジタルが苦手な方への支援は今より手厚くできると考えています。
反対意見「サイバー攻撃や情報漏えいのリスクが上がる。紙は流出しない」
リスクの形が変わるのは事実です。ただ「紙だから安全」も過信で、紙は紛失・持ち出し・災害による喪失と共にありました。
デジタル化はゼロトラスト型のセキュリティ設計(本サイト「ゼロトラスト行政」参照)とセットで進めることが前提条件です。
反対意見「行政のシステム投資は予算超過とベンダーロックインの歴史。年500万円では済まない」
同じ懸念から、札幌市議会の失敗例(リース料で経費増)をこのページに載せています。高価な専用システムを前提にした瞬間、この提案は破綻します。
汎用クラウドと既存端末で小さく始めるのが前提です。シミュレーターの「システム・端末の年間コスト」を動かすと、効果が消える線を誰でも確認できます。
反対意見「議会資料の紙に手数料を取るのは、議員の情報アクセスに経済的な差をつけることになる」
情報そのものはデジタルで全議員に平等・無償で配信されるのが前提です。手数料の対象は情報ではなく「紙という媒体」の実費です。
それでも制度設計としては、条例・申し合わせ上の位置づけや金額の妥当性に議論の余地があります。ページ内でも「私案」であることを明記しています。