Why Buses Decrease
三郷市地域公共交通計画から読む、減便の構造
乗る人が減れば、
便も減ります。
「バスの本数を増やしてほしい」という声は、市内でいちばん多く聞く要望のひとつです。ただ路線バスは、民間の会社が運んでいる事業です。運賃収入が運行費を下回れば、その路線は赤字路線になります。本数を減らすかどうかを決めているのは、市ではありません。
22
路線バス1便あたりの利用者(令和6年度)
520
コミバス利用者1人あたりの公費
94.7%
駅かバス停の徒歩圏にいる市民

なぜ、バスは減るのか。

出典は三郷市地域公共交通計画(令和8年度〜17年度)と市議会の答弁です。「本数を増やして」という声の前に、いま何が起きているのかを整理しました。

三郷中央駅前
Who Runs It

まず、誰が走らせているのか

市内を走るバスには、性格の違う2種類があります。ここを分けないと、話が噛み合いません。

路線バスコミュニティバス
誰が運行するか民間のバス会社市が事業者に委託
誰が決めるか会社が、事業として判断市が決める
お金の出どころ基本は運賃収入市の予算(年間約5,000万円)
減便・廃止会社の判断で起こりうる市の判断

つまり路線バスは、市の事業ではありません。民間の会社が、採算を見ながら走らせています。だから市が「増やしてください」と言っても、それだけでは増えません。

三郷市地域公共交通計画より
令和2年より開始したコミュニティバスは、年間約5,000万円の経費を市が負担しています。

令和元年12月に廃止された彦成地区の路線は、翌年1月からコミュニティバスに切り替えて維持しました。民間が降りた路線を、市が引き取って走らせている——それが年間5,000万円の中身です。

What Is A Deficit Route

「赤字路線」とは、何のことか

言葉のとおり、その路線を走らせるのにかかるお金より、運賃収入が少ない状態です。ただ、中身を分けて見ると分かりやすくなります。

出ていくお金
  • 運転士の人件費——最も大きい
  • 燃料費
  • 車両の購入・整備・車検
  • バス停・案内の維持
  • 保険、安全対策の費用
入ってくるお金
  • 運賃収入だけ
  • (=乗った人数 × 運賃)
路線バスの費用は走らせた時点でほぼ決まります。1人しか乗らなくても、50人乗っても、運転士の人件費も燃料もほとんど変わりません。だから、乗る人の数がそのまま収支になります。

赤字が続くと、会社は順に手を打ちます。①便を減らす → ②区間を短くする → ③路線をやめる。減便は、いきなり廃止するより前の段階の判断です。

見落とされがちなこと
減便すると、さらに乗る人が減ります。
本数が減る → 待ち時間が読めない → 車やタクシーに切り替える → 運賃収入がもっと減る → また減便。
——この循環に入ると、元に戻すのが難しくなります。
The Real Cause

いちばんの原因は、乗る人が少ないこと

市の計画には、原因が3つ挙げられています。順番に見ると、どれも「乗る人の数」に行き着きます。

原因 1
コロナで減った利用者が、戻っていない
市の答弁では「利用者の減少が回復せず」とされています。在宅勤務が定着し、通勤で毎日乗る人が戻りませんでした。
原因 2
運転士が足りない
計画は「路線バス・タクシー業界全体で乗務員不足が深刻化し、減便や運休などの影響が生じています」と書いています。人がいなければ、乗る人がいても走らせられません。
原因 3
燃料費が上がり、安全基準も厳しくなった
同じ本数を走らせるのに、かかるお金が増えました。収入が同じなら、その分だけ赤字が深くなります。
そして、根っこにあること
市民アンケートでは「買物・通院等の外出時の公共交通利用割合が低い」という結果が出ています。
1世帯あたりの自動車保有台数は約0.79台——多くの人が、そもそもバスを使っていません。

ここが難しいところです。「バスを増やしてほしい」と答える人と、実際に毎日バスに乗る人は、同じではありません。市の計画も、1便あたりの利用者数の目標を「増やす」ではなく「22人を維持する」と置いています。人口が減るなかで維持することすら簡単ではない、という見立てです。

The Geography

三郷市は、川に挟まれています

三郷市地域公共交通計画 冒頭より
三郷市は、埼玉県の東南端に位置し、面積30.22㎢で、東西は5.6㎞、南北は9.5㎞あり、西に中川、東に江戸川、南に小合溜井と水に囲まれた土地で、北は吉川市、南は葛飾区、東は流山市、松戸市、西は草加市、八潮市と接しています。

この地形が、バスのルート設計を難しくしています。東西は5.6km、南北は9.5km。細長い形です。しかも三方を川に囲まれ、東京・千葉・八潮へは橋を渡ります。

南北に長い
計画にはこう書かれています——「特に南北方向への移動を路線バスが主軸として担っている」。9.5kmを縦に結ぶ路線が生命線で、ここが減ると代わりがありません。
橋の位置で、ルートが決まる
川があるところは、どこでも渡れるわけではありません。橋のある場所を通らざるを得ないため、最短距離のルートが引けないことがあります。遠回りになれば、その分だけ時間と燃料がかかります。
隣は近いのに、行きにくい
南は葛飾区、西は八潮市・草加市と接していますが、間に川があります。市民アンケートには「市内より金町のほうが近い」という声もありました。生活圏と行政区域が、ずれています。
定時性は、渋滞の解消から
橋に交通が集中するため、渋滞が起きやすい構造です。計画も「慢性的な交通渋滞の発生」を課題に挙げています。時間どおりに来ないバスは、選ばれなくなります。

つまり「本数を増やす」だけでは解けません。川で分断された細長い市域を、限られた橋と道路でつなぐ——そもそもルートの引き方に、地形の制約がかかっています。

Where It Hurts

どこが、困っているのか

市は2つの言葉を使い分けています。まったくバスがない地域と、あるけれど少ない地域です。

区分定義三郷市では
公共交通
空白地域
鉄道駅から1km圏外、かつバス停から300m圏外上口1〜2丁目、番匠免1〜3丁目、栄4〜5丁目・鷹野2丁目など
公共交通
不便地域
バス停から300m圏内だが、片側の運行本数が1日30本未満本数の少ない区間・時間帯が各所にある
ここが、この問題の難しさです
鉄道とバスが使える圏内に住んでいる人は約13万2,300人=全人口の94.7%(令和2年国勢調査ベース)。
——数のうえでは、ほとんどの市民が「圏内」にいます。それでも不便だという声が出るのは、本数と時間帯が足りていないからです。

だから「バス停を増やす」では解決しません。問題は停留所の数ではなく、そこに来る便の数のほうにあります。そしてその便の数は、乗る人の数で決まります。

What The City Plans

市は、何をしようとしているか

令和8年度から10年間の計画に、数値目標が置かれています。

指標現況
(令和6年度)
中間
(令和12年度)
目標
(令和17年度)
路線バス1便あたりの利用者数
幹線公共交通軸
22人22人22人
コミュニティバスの年間利用者数98,671人103,000人108,000人
コミバス利用者1人あたりの公費520円500円470円
新たな移動手段の導入検討会議1地区2地区

注目したいのは1便あたり22人を「維持する」という置き方です。計画にはその理由も書かれています——「今後、人口減少が見込まれており、現在の利用者数の維持は困難になることが予想される」。増やす目標ではなく、減らさないための目標です。

もうひとつは1人あたりの公費を520円から470円に下げるという目標。これは利用者を増やすか、料金を見直すかのどちらかでしか達成できません。「お金をかければ解決する」という話ではないことが、ここに表れています。

市が挙げている方向性
幹線は優先的に守る——市内の移動に必要な軸は、事業者と協議して維持を図る(確保率100%を目標)
運転手の確保を支援する——事業①-3として明記
新しい手段を検討する——デマンド交通、自家用有償運送、日本版ライドシェア、AIデマンド交通など
使いやすくする——交通系ICカードなどのキャッシュレス決済、情報のオープンデータ化

令和8年3月に廃止された新三郷駅西口〜吉川駅南口の路線は、三郷市と吉川市が協力し、令和8年4月からコミュニティバスの実証運行に切り替わりました。市境をまたぐ路線を、2つの市で支える——地形の制約に対する、ひとつの答え方だと思います。

My View

私が、大事だと思っていること

「バスを増やしてほしい」という声は、切実なものです。免許を返したあと、通院に行けなくなる。その不安は、数字の話ではありません。

同時に、増やせば解決する問題ではないことも、数字を見ると分かります。1便あたり22人を維持することすら難しく、コミュニティバスには1人乗るごとに520円の公費が入っています。ここを見たうえで「どう残すか」まで言うのが、議員の仕事だと考えています。

考えていること 1
「守る路線」を、はっきりさせる
全部は維持できません。だからこそどの路線を最優先で守るのかを、市民に見える形で決める必要があります。計画の「幹線公共交通軸」は、その入口です。
考えていること 2
バス以外の形も、真剣に検討する
南北9.5kmを大型バスで結ぶ形が、唯一の答えとは限りません。デマンド交通、乗合タクシー、送迎資源の活用——地形と人口に合った形を探すべきだと考えています。
考えていること 3
「乗ってください」だけでは足りない
利用を呼びかけるだけでは、行動は変わりません。時間が読めること、支払いが楽なこと、どこへ行けるか分かること。使いにくさを一つずつ潰す必要があります。
どの路線が、どう不便ですか
「バスが減った」という声を、どの区間の、何時台かまで教えていただけると、議会で聞くときの精度が上がります。行き先が病院なのか買い物なのかでも、打つ手が変わります。
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暮らしやすさは何点か
147人に聞いた結果。理由の一位は交通の便でした。
誰が、どこまで担うのか
国・県・市・地域・個人の役割分担。
令和8年度予算
617.5億円の使い道。

本ページは「鈴木優作調べ」です。三郷市の公表資料と議会答弁をもとに整理したもので、市・議会・会派の公式見解ではありません。特定の事業者や路線を批判するものでもありません。制度と数字の説明として書いています。

Sources & Notes

作成:鈴木優作(三郷市議会議員/創政MISATO)
本数を決めているのは、乗る人の数のほう。