「反対しないことも、貢献です」
講演の終盤、議会でAIを使うときの現実的な役割分担の話になりました。得意な議員、議会事務局、苦手な議員——それぞれに役割がある、という整理のあとに出てきた言葉です。
で、ここ一番大事なんですけど、反対しないことも貢献です。反対しないことも貢献です。
AIは嘘つくぞとか、おめえらAIを使ってやってんのずるいぞとか、そんなふうなこと。だからもう議会で使わない方がいいとか、一般人でも使っちゃダメだみたいなことを言う方が出てくると、さっきのシナリオで言うと、シナリオ3に没入するんですよ。そうなると、取り残されるんですよ。
だからやることができる範囲でいいんです。得意な人と苦手な人が役割分担をしていきながら、議会全体としての意思決定の質を高めていくようなことにどんどん使っていってやりたい。
——佐藤淳氏(講演より。同じ言葉を二度繰り返して強調されました)
この言葉が刺さったのは、「使わない人」の立ち位置を、はじめて肯定的に定義したからだと思います。
新しい道具が入るとき、組織はたいてい「使える人/使えない人」で分かれます。使えない側は肩身が狭くなり、その居心地の悪さが「そんなものは信用できない」という抵抗に転じる。そうやって組織全体が止まる。私はこれを、議会に限らず何度も見てきました。
講師の整理は、そこに第三の道を置きました。使えなくてもいい。ただ、止めないでほしい。それ自体が組織への貢献だ——これは技術の話ではなく、合議体をどう運営するかの話でした。
| 立場 | 求められること |
|---|---|
| 得意な議員 | 得意を活かして積極的に使う。ただし自分の一般質問のためだけに使うのではなく、議会全体でAIを使う場面(議論を支える、資料の整理、議事録など)に活かす |
| 議会事務局 | 「もうマストですよ。ガンガン使えるようにならないと」。執行部に戻ったときにも効いてくる |
| 苦手な議員 | 「できる範囲でOK」。若い議員にアプリの入れ方を聞いて、まず触ってみる |
| 全員 | 反対しないこと。それも貢献 |
講師は「議会っていらないね」から始めた
講演の前半、講師はAIに地域課題——熊の出没問題——を投げ、農業従事者や熊など複数の立場の登場人物を設定して議論させるデモを見せました。課題のビジョンも、アクションプランも、数分で出てきます。
これ私、半年ぐらい前にこうやってて思ったんですよ。いらないね。議会っていらないね。って思ったんですよ。
——佐藤淳氏
地方議会改革を研究テーマにしている本人が、AIを触りながら議会不要論に行き着いた、という導入でした。そのうえで「では、議会に何が残るのか」を組み立てていく。逃げ道を先に塞がれた形で、2時間を聞くことになりました。
議会が向かう、3つの未来
生成AIは地方議会を進化させるか、消滅させるかの分岐点にある。どちらに向かうかは「あなたがどう使うか」で決まる——というのが講演の背骨でした。
講師の見立てでは、多くの議会が2か3に流れます。そして冒頭の「反対しないことも貢献です」は、シナリオ3への落下を止めるための言葉でした。
AI時代に、議会が果たす3つの役割
AIは「インターネット上のテキストをもとに、もっともらしい答えを生成する」仕組みです。ならば——と講師は問いました。
春日部市の市民の声って、どれくらいインターネット上にありますかね。
春日部市のいろんな課題が起きている現場の現場感みたいなものがわかる情報って、どれだけネット上に載っていますか。全世界のネット上の情報の中から見たら、ないに等しいですね。
——佐藤淳氏
この一言で、議会の役割がはっきりしました。AIが持っていないものを持っているのが、議員です。
これってAIにできないことじゃないですか。人間じゃないとできないことじゃないですか。(中略)市民の声を聞かない、議会で討議もしない、政策提言も行わない議会であれば、いらないんですよ。いらないんです。
——佐藤淳氏
私はこれを、脅しとしてではなく基準として受け取りました。この3つをやっているかどうかは、自分で点検できます。議員の職責とは何か、二元代表制のしくみとあわせて、自分の活動を照らし直す物差しになりました。
実際に、どう使われているか
講師が全国の議会で実践している事例が、具体的に紹介されました。
導入するときの、つまずきと対策
| つまずき | 講師の答え |
|---|---|
| コストがかかる | まずは無料版から試す |
| 難しそう | できる範囲で。得意な人に聞く |
| 情報漏えいが怖い | 個人情報・機密情報を入力しない |
| 使っていいのか分からない | AIに叩き台を作らせてガイドラインを策定し、それを材料に議会内で議論して決める |
| 嘘をつくのでは | そのとおり嘘をつく。だからファクトチェックは人間が必ず行う(他市議会での失敗事例も紹介されました) |
とくに実務的だったのが、ガイドラインの叩き台をAIに作らせるという提案です。「使っていいか」を議論しようとすると、たいてい議論の入り口で止まります。叩き台があれば、そこから直す議論に入れる。私が AIで行政をチェックする や ゼロトラスト行政 で考えてきたことと、地続きの発想でした。
開会で語られた、熊本地震への向き合い方
研修の冒頭、被災者へのお見舞いが述べられたあと、開催市の春日部市長から支援についての具体的な注意喚起がありました。①現地に行かない ②ボランティア募集を待つ ③SNSでの発信に注意する ④義援金で支援する——の4点です。
この4点は、私が 災害時の情報発信の指針 にまとめてきた内容とほぼ重なります。同じことが市長の口から語られたのは、心強いことでした。