まず、主張を3つに分解する
「辞職すると補欠選挙で税金が使われるから、辞職しない」。この説明は、3つの前提の上に成り立っています。
辞職すれば、補欠選挙が行われる
補欠選挙には、相応の費用がかかる
在職を続ければ、その費用は生じない
3つとも正しければ、この説明は成り立ちます。ひとつずつ、条文と予算額で確かめます。
欠員1人では、補欠選挙は行われない
市町村の議会の議員の場合には、…当該選挙区における議員の定数(選挙区がないときは、議員の定数)の六分の一を超えるに至つたとき。
三郷市議会の定数は24。24÷6=4で、条文は「4を超える」と書いています。つまり単独の補欠選挙が行われるのは、欠員が5人以上になったときです。
1人が辞職しただけでは補欠選挙は行われません。したがって、その補選費用は 0円です。
ただし例外があります。他の選挙と同じ日に行う場合は、欠員1人でも補欠選挙ができます(同条第3項第3号)。三郷では2026年11月1日の市長選挙が該当し、欠員が選挙管理委員会に伝わるのが告示日(10月25日)の10日前=10月15日より前であれば、同日に補欠選挙が行われます。
この「10日ルール」と自動失職のしくみは別ページに詳しく書きました。→ 市議が他の選挙に出たら議席はどうなる?
同じ日に行う補選は、選挙1回分の費用ではない
選挙にかかるお金は、性質の違う3つに分かれます。同じ日に行えば、増えるのは一部だけです。
同日なら増えない
- 投票所の設営
- 投票管理者・立会人の報酬
- 職員の休日勤務手当
- 期日前投票所の運営
- 入場整理券の作成・郵送
- 開票所の設営・警備
増えるが2倍にはならない
- 開票事務の従事者
- 投票用紙・記載台
- 選挙公報(2種を同封)
同日でも減らない
- 選挙公営費(ポスター作成)
- 選挙運動用自動車
- ビラ・はがき
- 候補者数に比例して残る
三郷市の令和8年度当初予算に計上された市長選挙費は8,005万円(款4選挙費・目2)。これは市長選を単独で執行する費用です。市長選と市議選(24議席の一般選挙)を同じ日に行う場合の増分を、本サイトの選挙コスト試算では約3,000万円と置いています。
補欠選挙は1議席で、候補者数も一般選挙より少なくなります。C群は候補者数に比例するので、増分は一般選挙の同日執行より小さくなります。
三郷市で同日補選を執行した場合の増分の実額は確認できていません。ここで言えるのは「一般選挙の同日増分(約3,000万円)より小さい」という上限までです。実額は選挙管理委員会にご確認ください。
在職を続けても、支出は止まらない
議員1人に支出される額は、すべて条例で決まっています。
| 項目 | 条例上の額 | 年額 |
|---|---|---|
| 議員報酬 | 月額 430,000円 | 516万円 |
| 期末手当 | 支給率225/100 × 年2回(加算率20/100) | 232万円 |
| 政務活動費 | 月額 30,000円(未使用分は返還) | 36万円 |
| 計(一般議員1人) | — | 784万円 |
このほかに議員共済費(旧議員年金の給付費負担金)が1人あたり年約128万円あります(令和8年度当初予算・款1議会費の議員共済費30,713千円 ÷ 24人)。込みで年約912万円です。
議席が空いている間、この報酬等は支出されません。逆に言えば、在職を続けるかぎり支出は続きます。「在職=税金を使わない」ではありません。
3つの道を、同じ表に並べる
2026年11月に議席が空いたとして、次の一般選挙(2029年7月ごろ)までの約2年8か月で比べます。
| 道 | 補選の費用 | 議員報酬等(残任期分) | 議席 |
|---|---|---|---|
| A 10月15日までに辞職 市長選と同日に補選 | 増分のみ 上限3,000万円未満・実額未確認 | 約2,090万円 後任へ | 11月1日に埋まる |
| B 告示日まで在職 自動失職・補選なし | 0円 | 0円(空席) | 2029年7月まで空席 |
| C 辞職しない | 0円 | 約2,090万円 本人へ | 埋まっている |
約2,090万円=784万円 × 約2年8か月。議員共済費を含めると約2,430万円。
この表から読み取れることは3つです。
市の支出がいちばん少ないのはB。ただし2年8か月、24分の1の代表が不在になります。
AとCの差は、補欠選挙の増分だけ。報酬等は「誰に払うか」が違うだけで、額は変わりません。
Cは「税金を使わない選択」ではありません。年784万円(共済費込み約912万円)は出続けます。
「費用がかかるから辞めない」は、何と何を比べているのか
整理すると、費用論が成り立つのは AとCを比べたときの「補欠選挙の増分」という一点だけです。
「辞職すれば補欠選挙が行われる」(前提1)は、欠員1人では成り立ちません。「在職なら費用が生じない」(前提3)も、報酬等が出続けるので成り立ちません。3つの前提のうち2つが、条文と予算額に照らして成り立たないということです。
そして、残った一点で比べているものは何か。議席を有権者の手で埋め直すかどうかです。費用の話としては、そこまでです。
その費用は、何を買っているのか
2025年7月20日執行の三郷市議会議員選挙の有権者数は114,049人。定数24で割ると、1議席あたり約4,752人です。
かりに増分を上限の3,000万円と置いても、有権者1人あたり263円。これで、4,752人分の代表が2年8か月ぶん回復します。
高いか安いかは、読む人が決めることです。ただ、費用を理由にするなら、その費用が何のためのものかまで並べて示すべきだと考えています。片側だけを示せば、判断の材料にはなりません。
この試算の、いちばん弱いところ
都合の悪い前提こそ、先に書いておきます。
- 三郷市で同日補選を執行した場合の増分の実額は未確認です。上限として、一般選挙の同日増分(約3,000万円)を置いています。
- 議員報酬等は条例額です。実際の支給は在職日数による日割り等で変わりえます。
- 議長・副議長・委員長は一般議員と報酬が異なります。ここでは一般議員の単価で統一しています。
- 議員共済費は、令和8年度当初予算の議員共済費30,713千円を24人で割った概算です。
- 空席による「代表の不在」は金額に換算していません。換算すべきでないと考えています。
あわせて読む
制度と数字の、となりのページ
・市議が他の選挙に出たら議席はどうなる? — 自動失職と10日ルール
・議員を1人減らすと、4年で3,136万円 — 議員1人あたりコストの内訳
・20年で、選挙を10回やるか、5回やるか — 選挙費用の3層構造
・三郷市の財政を家計に置きかえる — 市の支出全体の中での位置