市にできること、
市にはできないこと。
「市がやればいい」と言われることの多くは、市の権限ではありません。逆に、市が決められるのにやっていないこともあります。分野ごとに、誰が決めるのかを法令で並べました。
道路・信号・街灯
同じ「道」でも、誰が直すかは路線で違います。信号は市の権限ではありません。
市にできること
- 市道の舗装・側溝・カーブミラー・区画線の設置と補修
- 通学路の点検と、危険箇所の県・警察への申し入れ
- 道路照明(街灯)の設置。防犯灯は自治会と市の分担で運用されることが多い
- 国道・県道の不具合を、管理者へ通報・要望として上げる
市にはできないこと
- 信号機を設置すること。信号は都道府県公安委員会の権限です
- 横断歩道・一時停止・速度規制を市が決めること
- 国道・県道を市の判断で改良すること
- 違法駐車の取締り(警察の所管)
どこを押すと動くか
- 市道は予算(款8土木費)で直接。要望はその年度の予算に載るかで決まる
- 信号や規制は、市から警察署経由で公安委員会へ上申する形。市にできるのは根拠を揃えて出し続けること
根拠道路法/道路交通法/道路標識、区画線及び道路標示に関する命令
国土交通省のLINE通報(#9910 は電話)など、国道・県道・市道を問わず受ける窓口も既にあります。
川・水路・内水
外の川と、内側の水は、担当が違います。三郷が悩むのは主に内側です。
市にできること
- 雨水排水施設・ポンプ場の整備と運転(内水対策)
- 内水ハザードの想定と、避難情報を出す判断
- 水位の情報を市民に届ける仕組みをつくること
- 国・県の管理区間について、堤防や排水機場の整備を要望すること
市にはできないこと
- 一級河川の堤防を市が造ること、川の水位操作を市が決めること
- 国管理の排水機場の運用を市が指揮すること
どこを押すと動くか
- 内水は市の予算と計画で動かせる領域。ここは市の裁量が大きい
- 外水(河川氾濫)は国・県との協議と要望が中心
根拠河川法/下水道法/水防法
バス・鉄道
路線バスは民間の許可事業です。市が路線を引けるわけではありません。
市にできること
- 地域公共交通計画をつくり、市として必要な路線像を示すこと
- コミュニティバスの運行(委託・補助)と、実証運行の場を用意すること
- 法定協議会(地域公共交通会議等)を回し、事業者・住民・国と合意をつくること
- 鉄道事業者へ、駅施設や高架下の活用を提案・協議すること
市にはできないこと
- 民間バスの路線を市が新設・存続させること(最後は事業者の経営判断)
- 運賃を市が決めること
- 鉄道のダイヤ・駅の設備を市が決めること。高架下は鉄道事業者の資産
どこを押すと動くか
- 計画に位置づけないと、国の補助にも法定協議会の議論にも乗らない
- 実証は市が主体になれる。ただし本格運行は事業者と採算の合意が要る
根拠道路運送法/地域公共交通の活性化及び再生に関する法律
学校・教育
市役所と教育委員会は別の執行機関です。市長でも議員でも、直接は動かせません。
市にできること
- 校舎の改修、空調、トイレ、ICT機器など施設・備品への投資(市の予算)
- 給食費や就学援助など、市の制度としての支援
- 通学路の安全対策(道路管理者としての立場)
- 統廃合や適正配置の検討を、教育委員会に対して求めること
市にはできないこと
- 教員の増員・配置を市が決めること。教職員の任命権は県にあります
- 教育課程や学校の運営に市長部局が直接指示すること
- 学校の設置・廃止を市長や教育委員会だけで決めること(条例=議会の議決が要る)
どこを押すと動くか
- 市がお金で動かせるのは「ハコと道具と支援制度」。人と中身は教育委員会と県
- 統廃合は、教育委員会が案をつくり、市長が議案として出し、議会が条例で決める
根拠地方教育行政の組織及び運営に関する法律/学校教育法/市町村立学校職員給与負担法
部活動の地域移行は国が進めている枠組みで、市の役割は受け皿と指導者への対価の財源。
保育・子育て
認可の権限は県ですが、入園の調整と多くの給付は市の仕事です。
市にできること
- 入園の利用調整(いわゆる選考)と、保育の必要性の認定
- 保育料の設定(国の上限の範囲で市が決める)
- 小規模保育・家庭的保育などの地域型保育の認可と整備
- 子育て支援センター、一時預かり、病児保育などの事業実施
- 児童手当・こども医療費など給付の窓口
市にはできないこと
- 認可保育所そのものを市が認可すること(一般市では県の権限)
- 民間の園に定員や運営方針を市が一方的に決めさせること
どこを押すと動くか
- 市町村子ども・子育て支援事業計画に量の見込みと確保方策を書く。ここに載らないと整備は進まない
- 給付と利用調整は市の裁量が大きい領域
根拠子ども・子育て支援法/児童福祉法
介護・高齢者
ここは市の権限がいちばん大きい分野です。保険者は市町村です。
市にできること
- 介護保険事業計画(3年ごと)で、サービス量と保険料を決めること
- 地域包括支援センターの設置・運営(直営/委託)
- 地域密着型サービス(小規模多機能、認知症グループホーム等)の指定
- 総合事業として、市独自の生活支援・通いの場を設計すること
- 見守り・買い物支援など、保険外の生活支援を市の事業として組むこと
市にはできないこと
- 介護報酬の単価を市が変えること(国が決める)
- 広域の特別養護老人ホーム等の指定(県の所管)
どこを押すと動くか
- 3年に一度の事業計画が最大の意思決定。ここを外すと3年動かせない
- 保険料は条例で決める。給付が増えれば保険料に返ってくる関係にある
根拠介護保険法
三郷市の具体的な計画期の数値は未確認。計画の版で異なるため、引用時は原本にあたること。
医療
医師を市が雇うわけではありません。開設の許可も市ではありません。
市にできること
- 健診・がん検診・予防接種の実施と自己負担の設定
- 母子保健(乳幼児健診、産後ケア、訪問)
- 国民健康保険の運営(県と共同)と保健事業
- 在宅医療・介護連携の場をつくり、医療機関と情報共有の仕組みを整えること
市にはできないこと
- 医師を市が確保・配置すること(医療計画は県)
- 病院や診療所の開設・診療科目を市が決めること
- 診療報酬に手を入れること
どこを押すと動くか
- 市にできるのは「つなぐ」と「予防」。ここは予算と体制で動かせる
- 医師確保は県の医療計画の話。市は要望と環境整備
根拠医療法/健康増進法/母子保健法/国民健康保険法/予防接種法
住まい・団地・空き家
団地は市のものではありません。一方、空き家は市に強い権限があります。
市にできること
- 市営住宅の管理・入居基準・家賃(条例の範囲で)
- 空家等対策計画をつくり、特定空家等に対して助言・指導・勧告・命令・代執行まで行うこと
- 勧告を受けた特定空家等は、固定資産税の住宅用地特例から外れる(税制上の効果)
- 空き家バンクなど、使いたい人と持て余す人をつなぐ仕組みをつくること
- URや県に対して、地域の側から提案・協議すること
市にはできないこと
- UR団地の建て替え時期・入居条件・家賃を市が決めること
- 県営住宅の管理方針を市が決めること
- 所有者不明でない通常の空き家に、いきなり強制力を行使すること(段階を踏む必要がある)
どこを押すと動くか
- 空き家は法律で市に権限が与えられている数少ない領域。ここは踏み込める
- 団地は協議のテーブルをつくり、周辺環境(保育・交通・買い物)を市の側で整えるのが現実解
根拠空家等対策の推進に関する特別措置法/公営住宅法/独立行政法人都市再生機構法
ごみ・環境
一般廃棄物は市の責務。産業廃棄物は県。ここは分かれ目がはっきりしています。
市にできること
- 分別区分・収集回数・指定袋・手数料を市が決めること(条例)
- 一般廃棄物処理計画をつくること
- 不法投棄の対応(市の土地・道路の場合)
- 多言語のごみ出し案内をつくること
市にはできないこと
- 産業廃棄物の許可や指導(県の所管)
- 事業者に対する強い規制を市の判断だけで課すこと(法令の枠内に限られる)
どこを押すと動くか
- 分別と手数料は条例。市民生活に直結するので議会と説明の設計が要る
- 外国から来た住民への周知は、市の裁量で今日からできる領域
根拠廃棄物の処理及び清掃に関する法律
三郷市の分別区分・手数料の具体は未確認。市公式の案内が正。
防災・消防
計画に書かれていない言葉は、現場では動きません。
市にできること
- 避難情報(高齢者等避難・避難指示等)を市長の判断で出すこと
- 避難所の指定・開設・備蓄・運営体制の設計
- 地域防災計画・水防計画の改定
- 自主防災組織の育成・支援、防災行政無線・情報伝達手段の整備
市にはできないこと
- 気象警報や河川の氾濫危険情報そのものを市が出すこと(気象庁・河川管理者)
- 自衛隊を市が直接動かすこと(県知事を通じた要請)
どこを押すと動くか
- 避難情報は市長の権限。だからこそ、出す基準を先に決めておく必要がある
- 計画の言葉・現場の手順・備蓄の中身、この3つが揃っていないと動かない
根拠災害対策基本法/水防法/消防組織法
防犯・交通安全
取締りは警察です。市にできるのは環境をつくる側です。
市にできること
- 防犯灯・防犯カメラの設置と補助
- 通学路の見守り、青色防犯パトロールの支援
- 警察・学校・自治会をつなぐ協議の場をつくること
市にはできないこと
- 違法駐車や騒音の取締りを市が行うこと
- 交通規制(一時停止・速度・横断歩道)を市が決めること
どこを押すと動くか
- 市は「起きにくくする環境」に投資できる。起きたことへの対処は警察
- つなぐところまでを市の責任にする、という設計が現実的
根拠道路交通法/警察法
生活保護・福祉
生活保護は国の制度ですが、実施するのは市の福祉事務所です。
市にできること
- 申請の受付・調査・決定・支給と、自立支援のプログラム
- 生活困窮者自立支援(相談、家計改善、就労準備、住居確保給付金)
- 市独自の上乗せ・横出しの支援を、別制度として設計すること
市にはできないこと
- 保護基準(いくら支給するか)を市が変えること
- 受給要件を市の判断で緩める・厳しくすること
どこを押すと動くか
- 基準は動かせないが、たどり着きやすさと自立の支援は市の設計次第
- 窓口の運用・体制・つなぎ方に、市の姿勢が出る領域
根拠生活保護法/生活困窮者自立支援法
尊厳に関わる分野のため、コスト削減の文脈では扱わない。
産業・商業・創業
市ができるのは、直接の補助よりも「場と条件」をつくることです。
市にできること
- 市独自の補助金・利子補給の設計(交付要綱で決まる)
- 創業支援等事業計画をつくり、国の認定を受けて支援を厚くすること
- 産業用地・立地の誘導(都市計画・条例の範囲で)
- 公共調達を通じて市内事業者に仕事を回す設計(地域要件など、法令の範囲で)
市にはできないこと
- 商店会・商工会に加入を強制すること
- 民間の出店・撤退を市が決めること
- 国・県の補助制度の要件を市が変えること
どこを押すと動くか
- 補助の出し方を変えるには、予算額ではなく交付要綱を変える
- 「配る」より「場をつくる」ほうが、市の裁量で早く動かせる
根拠中小企業基本法/産業競争力強化法(創業支援等事業計画)
お金・予算・契約
予算をつくるのは市長、決めるのは議会。ここは市の内側の話です。
市にできること
- 当初予算・補正予算の編成(款・項・目・節の組み立て)
- 基金の設置と運用(条例と法令の範囲で)
- 契約方法の設計(入札・随意契約・単価契約・指定管理)
- 補助金の交付要綱の改正、実績報告の様式と厳格さ
- 予算・決算の公開の粒度と時期
市にはできないこと
- 地方交付税の算定を市が変えること
- 議決を経ずに予算を新たに使うこと(流用・充用・予備費には枠と限度がある)
- 議会の議決が必要な契約を、分割して議決を回避すること
どこを押すと動くか
- 当初予算の議案が議会に出るのは3月。中身が固まるのはその前の秋
- 議決基準額(工事1.5億円・財産取得2000万円)の直下に契約が集まっていないかは、事前監査の観点のひとつ
根拠地方自治法/地方財政法/地方自治法施行令
情報公開・デジタル
ここは、ほぼ全部が市の裁量です。だから言い訳が効きません。
市にできること
- 予算・決算・契約・補助金の公開の粒度と形式を市が決めること
- PDFではなく機械が読める形(CSV・API)で出すこと
- 申請の様式や窓口の運用を変えること
- 生成AIを庁内業務に導入すること(例規・様式・決裁の範囲で)
市にはできないこと
- 個人情報を、法令の根拠なく目的外に使うこと
- 国が定める標準化の仕様から外れて独自システムを作り続けること
どこを押すと動くか
- お金がほとんどかからない領域。やらない理由は予算ではなく優先順位
- プッシュ型の案内は、保有情報の目的外利用にならない設計が前提になる
根拠情報公開条例/個人情報の保護に関する法律/デジタル社会形成基本法
上下水道
料金は市が条例で決めますが、水そのものは市だけで完結していません。
市にできること
- 水道料金・下水道使用料を条例で決めること(改定は議会の議決)
- 公共下水道の整備・維持・更新の計画と実施
- 雨水排水(内水対策)の設計。汚水と雨水は別の話として扱う
- 経営戦略・アセットマネジメントをつくり、更新需要と料金の関係を市民に示すこと
市にはできないこと
- 県営水道からの<strong>受水単価を市単独で決めること</strong>
- 流域下水道(複数市町村にまたがる幹線・処理場)を市が管理すること
どこを押すと動くか
- 料金は条例なので、上げるにも下げるにも議会を通る。<strong>だからこそ、根拠となる収支見通しの公開が先</strong>
- 更新需要は数十年単位。単年度の予算だけ見ていても判断できない
根拠水道法/下水道法/地方公営企業法
三郷市の水源構成(県水と自己水源の比率)・料金体系・経営戦略の内容は未確認。市公式と経営戦略の原本が正。
公園・緑地
意外に知られていませんが、都市公園は<strong>簡単には廃止できません</strong>。法律がそう書いています。
市にできること
- 市の都市公園の新設、遊具・トイレ・照明の更新
- 指定管理者制度による運営、民間活力の導入(Park-PFI 等)
- 占用許可(イベント、売店、電柱など)の判断
- 公園の使い方のルールを地域と決め直すこと(ボール遊び、犬の散歩など)
市にはできないこと
- <strong>都市公園を自由に廃止すること。</strong>都市公園法16条は、代替公園の設置など限られた場合を除いて廃止を認めていません
- 県立公園・国営公園の管理方針を市が決めること
- 河川区域内の土地を、河川管理者の許可なく公園として使うこと
どこを押すと動くか
- 「公園を減らさない」は理念ではなく、<strong>そもそも法律が減らしにくい設計になっている</strong>。争点は総量より質と使い方
- 新設は用地取得が最大の壁。既存の公園の質を上げるほうが、市の裁量で早く動く
根拠都市公園法(とくに第16条 公園の保存)/河川法
三郷市の公園数・面積・1人あたり面積は未確認。
都市計画・開発
誤解が多いところです。<strong>市街化区域と調整区域の線引きを決めるのは、市ではなく県です。</strong>
市にできること
- 用途地域や地区計画を市の都市計画として決定すること(県との協議は要る)
- 都市計画マスタープランをつくり、市としての方針を示すこと
- 立地適正化計画で、居住や都市機能を誘導する区域を定めること
- 景観・高さ・緑化などのルールを条例で定めること
市にはできないこと
- <strong>市街化調整区域を市街化区域に変えること(線引きの変更は県が決定)</strong>
- 都市計画区域そのものを市が指定すること
- 一般市では、開発許可の権限は原則として県にある(移譲されている場合を除く)
どこを押すと動くか
- 「あの土地に建てられるようにしてほしい」は、多くの場合<strong>市の一存では動かせない</strong>
- 市が動かせるのは、用途地域・地区計画・マスタープラン。<strong>線引きは県との協議を積む話</strong>
根拠都市計画法(第5条 都市計画区域/第7条 区域区分/第15条 都市計画を定める者/第29条 開発許可)
三郷市における開発許可権限の移譲状況、用途地域の指定内容は未確認。市の都市計画担当課が正。
税
税率を自由に決められるわけではありません。多くは法律で決まっています。
市にできること
- 制限税率の範囲内で税率を条例で定めること
- 減免の基準を条例・規則で定め、運用すること
- 徴収体制(納付方法、滞納整理、コンビニ・スマホ決済など)を設計すること
- 法定外税を新設すること(総務大臣の同意が要る)
市にはできないこと
- <strong>消費税・所得税・法人税の税率を市が変えること</strong>
- 制限税率を超えて課税すること
- 地方交付税の算定を市が変えること
どこを押すと動くか
- 税収を増やす直接の手段は乏しい。<strong>効くのは、課税客体を増やすこと(人が住み、事業が動くこと)</strong>
- 徴収率の改善と、収入未済・不納欠損の管理は市の裁量。ここは事前監査の観点にも入れている
根拠地方税法/地方交付税法
三郷市の税率・減免制度の具体は未確認。市公式が正。
なぜ、これを書いたか
市民のみなさんからいただく声の中には、市に言っても動かないものがあります。信号、県道、川の堤防、教員の数、団地の建て替え。どれも「市がやればいい」と言われますが、決めているのは市ではありません。
だからといって「市の仕事ではありません」で終わらせるのは、たらい回しです。市にできるのは、正しい相手につなぐことと、市の側で整えられるものを整えること。そこまでを市の責任だと考えています。
そして逆に、市が決められるのに動いていない領域もあります。情報公開の粒度、補助金の交付要綱、申請の様式、介護保険事業計画。ここに「できません」は使えません。
このページは鈴木優作が法令と実務から整理したものです。制度は改正されますし、三郷市固有の運用は各担当課が正です。誤りを見つけたら教えてください。直して、直した記録を残します。