Tax Collection Rate Simulation
三郷市の市税徴収率を1ポイント上げると
2億5,047万円
ただし、取りきれていない市税は全部あわせても3億5,595万円。伸びしろは1.42ポイントで天井です
98.42%
市税の徴収率(令和7年度決算)
99.22%
現年課税分の徴収率
40.08%
滞納繰越分の徴収率

「徴収率を上げろ」は、財源論としてどこまで通用するのか。

鈴木優作の個人的なシミュレーションです。市の財源が足りないという話になると、必ず「まず徴収率を上げるべきだ」という意見が出ます。もっともな指摘です。ただ、令和7年度決算の実数を最後まで追うと、そこに残っている余地は思ったより小さく、そして中身がはっきり分かれていました。決算書の13行を全部足して原本の合計と突き合わせたうえで、前提を自分で動かして確かめてください。

The Ledger

まず、決算書に書いてある実数から

令和7年度決算の歳入歳出決算事項別明細書には、市税が税目ごとに「調定額・収入済額・不納欠損額・収入未済額」の4つの欄で並んでいます。調定額は「市が課税して、納めてくださいと確定させた額」。収入済額は「実際に入った額」。この2つの比が徴収率です。

税目調定額収入済額徴収率不納欠損額収入未済額
市民税11,638,284,09111,366,254,50297.66%33,112,977238,916,612
固定資産税10,846,777,51910,746,737,56999.08%5,059,49994,980,451
軽自動車税280,811,561265,847,59694.67%1,721,50013,242,465
市たばこ税1,276,275,5151,276,275,515100.00%00
都市計画税1,004,820,634995,531,07099.08%477,8008,811,764
市税 合計25,046,969,32024,650,646,25298.42%40,371,776355,951,292

単位:円。三郷市議会 令和8年9月定例会 提出「令和7年度 三郷市一般会計歳入歳出決算事項別明細書」より。上の5行を足すと、決算書に印字された市税合計と、4つの欄すべてが1円まで一致します。この突き合わせが取れるまで、このページは公開しない方針で作りました。

Collected
実際に入った市税
246.5億円
一般会計の歳出決算711.5億円の34.6%
Uncollected
年度末に残った未収
3.56億円
翌年度に「滞納繰越分」として持ち越される
Written Off
不納欠損(回収を諦めた額)
4,037万円
時効の完成や執行停止で、法的に消えた分
One Point
徴収率1ポイント分
2.50億円
調定額25,046,969,320円の1%
Two Different Worlds

徴収率は、まったく違う2つの数字の平均だった

市税の徴収は「現年課税分(その年に課税した分)」と「滞納繰越分(前年度までの未収を持ち越した分)」に分かれます。決算書はこれを別の行で書いています。合わせて98.42%ですが、中を開けると別世界でした。

区分調定額収入済額徴収率不納欠損額収入未済額
現年課税分24,708,811,09124,515,101,44799.22%879,825192,829,819
滞納繰越分338,158,229135,544,80540.08%39,491,951163,121,473
市税 合計25,046,969,32024,650,646,25298.42%40,371,776355,951,292

単位:円。決算書の現年・滞納の全13行(市民税個人・法人、固定資産税、国有資産等所在市町村交付金、軽自動車税の環境性能割と種別割、市たばこ税、都市計画税)をそれぞれ現年と滞納に分けて集計。この13行の合計も、4つの欄すべてが原本の市税合計と1円まで一致しています。

ここが、このページで一番言いたいことです

滞納繰越分は、調定額全体のわずか1.35%しかありません。にもかかわらず、収入未済額の45.8%、不納欠損額にいたっては97.8%を占めています。

つまり、現年課税分はほぼ取れている。三郷市の現年徴収率99.22%は、決して低い数字ではありません。取りきれずに残っているものの中身は、そのほとんどが「何年も前から払えていない分」です。ここには、事業がうまくいかなくなった方、病気になった方、家族の事情が変わった方が含まれます。

「徴収率を上げろ」という一言は、実務のうえでは「もう何年も払えていない人から、もっと取れ」とほぼ同義になります。それが正しい場合もありますし、そうでない場合もあります。だからこそ、数字の中身を見ないまま財源論として使うのは危ういと考えています。

Simulator

動かしてみてください

残っている未収を、どこまで回収できたら、いくら増えるのか。現年課税分と滞納繰越分に分けて動かせます。初期値0%が令和7年度決算の実績そのものです。不納欠損として法的に消えた4,037万円はもう回収できないので、両方を100%にしても徴収率は99.84%までしか上がりません。その年度の徴収率が100%になることは、制度上ありえません。

徴収率シミュレーター

令和7年度決算の調定額を固定して計算
その年に課税した分の未収 1億9,283万円
0%
前年度までの持ち越し分の未収 1億6,312万円
0%
増える市税
0万円
市税全体の徴収率
98.42%
実績から何ポイント
0.00pt
市の支出の何日分か
0.0

「市の支出の何日分か」は、令和7年度一般会計の歳出決算71,149,760,890円を365日で割った1日あたり約1億9,493万円で換算しています。増収額の規模感をつかむための目安であり、特定の事業に充てられるという意味ではありません。

スライダーを両方100%にすると、どうなるか

制度上ありうる最大
増収額(最大)
3億5,595万円
そのときの徴収率
99.84%
実績からの上昇幅
1.42pt
市の支出の
1.8日分

未収は全部で3億5,595万円しかないので、これが天井です。「徴収率を1ポイント上げる」は、実務上は「残っている未収の70%を、1年で取りきる」という意味になります。そして2ポイント上げることは、制度上できません。徴収率が99.84%止まりなのは、不納欠損4,037万円がすでに法的に消滅しており、回収の対象が残っていないためです。

Ceiling

「徴収率を上げれば財源が出る」の、正確な大きさ

数字を並べると、こうなります

・現年課税分をかりに100%にできたとして、増えるのは1億9,283万円(0.77ポイント相当)

・滞納繰越分をかりに100%回収できたとして、増えるのは1億6,312万円(0.65ポイント相当)

・両方を100%にして、ようやく3億5,595万円(1.42ポイント)

一般会計の歳出は711.5億円です。徴収を完璧にやりきって浮くのは、その0.5%にあたります。三郷市の財政に効かないとは言いません。3.56億円は、それ自体が大きなお金です。ただ、これを「財源はここから出せる」の主軸に置くと、話が合わなくなります。

私は、徴収の努力を軽く見ているのではありません。むしろ逆で、現年徴収率99.22%は、市の徴収担当がすでに相当な仕事をしている結果だと読んでいます。伸びしろが小さいのは、サボっているからではなく、もう取れているからです。

それでも、この数字を追いかける意味はあります

金額の大きさとは別に、徴収率には「公平性」の意味があります。同じ制度のもとで、納めた人と納めていない人がいる。この不公平を放置しないことは、税という仕組みそのものへの信頼に関わります。

だから私は、徴収率を財源確保の手段としてではなく、公平性の指標として見るべきだと考えています。目標の立て方も、報告のされ方も、そのほうが実態に合います。

What Is a Write-off

「不納欠損4,037万円」は、どこへ消えたのか

決算書には毎年「不納欠損額」という欄があります。これは市が回収を諦めた額ですが、担当者の判断で自由に消せるものではありません。地方税法に、消える条件が3つ書いてあります。

根拠となる条文
どういう場合に消えるか
地方税法 第18条時効による消滅
法定納期限の翌日から5年経つと、徴収権が時効で消滅します。時効は納税者が援用しなくても成立し、放棄もできません(同条第2項)。督促や差押えをすれば時効は中断しますが、何もしないまま5年経てば自動的に消えます。
地方税法 第15条の7 第4項執行停止から3年
財産がない、生活を著しく窮迫させる、所在も財産も不明——このいずれかに当たると滞納処分の執行を停止でき、その状態が3年続くと納税義務が消滅します。
地方税法 第15条の7 第5項即時消滅
執行停止の要件に該当し、かつ徴収できないことが明らかなときは、市長はただちに納税義務を消滅させることができます。

不納欠損額4,037万円のうち97.8%が滞納繰越分でした。これは、上の3つの条件に当てはまるまで何年もかかるためで、構造上そうなります。逆に言えば、現年課税分の不納欠損はわずか87万9,825円——課税したその年に消えるケースは、ほとんどありません。

議会として、ここは見るべきだと考えています

不納欠損は「取りっぱぐれ」と読まれがちですが、実態はそう単純ではありません。執行停止(第15条の7)は、生活を守るために市が能動的に使う制度でもあります。財産がない人から無理に取り立てないための仕組みです。

ですから議会が見るべきは「不納欠損額が多いか少ないか」ではなく、その内訳が時効なのか執行停止なのかだと考えています。時効による消滅が多ければ、それは接触や督促が間に合っていないというサインです。一方、執行停止による消滅が多いなら、それは制度が想定どおり働いた結果かもしれません。同じ「不納欠損」でも意味が正反対です。

この内訳は決算書の本表には載っていません。私は、この区分を確認していきます。(2026年8月29日時点で、時効/執行停止の内訳は未確認です。分かり次第このページを更新します。)

Two Approaches

「取り立てを強める」のか、「納めやすくする」のか

徴収率を上げる方法は、大きく2つの方向に分かれます。どちらか一方だけが正しいとは思っていません。ただ、この2つは同じ「徴収率向上」という言葉で語られがちなので、分けて置いておきます。

取り立てを強める方向
納めやすくする方向
財産調査・差押えの強化預貯金や給与の調査を増やし、差押えを早める。滞納整理の専任体制を厚くする。
納付手段を増やすスマホ決済、口座振替、コンビニ納付、eLTAXの地方税お支払サイト。窓口に行かなくても納められる経路を増やす。
早期着手納期限を過ぎたら早く督促・接触する。滞納が古くなるほど回収率は落ちるため、初動を早める。
分割と猶予の周知徴収猶予(地方税法第15条)や換価の猶予(第15条の5・6)を使える人に、制度があることを届ける。
埼玉県との連携県税事務所や地方税徴収機構を通じた広域での滞納整理。市単独では届かない案件に対応する。
生活支援へつなぐ滞納は生活困窮のサインでもある。徴収の窓口から福祉部門へつなぐ導線をつくる。取れない理由を解消するほうが、結果として早い場合がある。

私自身は、現年課税分は「納めやすくする」、滞納繰越分は「早く接触する」という組み合わせが実態に合うと考えています。現年で取りこぼさなければ、そもそも滞納繰越分は生まれません。上の数字が示すとおり、滞納は古くなるほど回収率が落ち(40.08%)、不納欠損として消えていきます。

反対意見「3.56億円でも大金だ。天井が低いからやらなくていい、という話にすり替えていないか」

すり替えるつもりはありません。3億5,595万円は大金です。私が言いたいのは「やらなくていい」ではなく、「これを財源対策の主軸に据えると、規模が合わない」ということだけです。

徴収の努力はしたうえで、それでも足りない分をどうするかは別に考える必要があります。徴収率の話で財源論を終わらせてしまうと、その別の議論が始まりません。

反対意見「払える人が払っていないケースもある。困窮に配慮しすぎでは」

そのとおりで、両方あります。だから「一律に厳しく」も「一律に配慮」も間違いだと思っています。必要なのは仕分けです。

そして仕分けをするには財産調査が要り、財産調査には人手が要ります。徴収を強化するというのは、実際には徴収部門に人を置くかどうかという人員配置の話です。増収3.56億円が上限だと分かっていれば、そこに何人まで置くのが妥当かも計算できます。天井を知ることは、諦めることではなく、投資判断の前提です。

反対意見「他市と比べて三郷市の徴収率は高いのか、低いのか。それを書かないと評価できない」

そのご指摘は正しく、そしてこのページの現時点での弱点です。他市との比較は、総務省の市町村別決算状況調で取れるはずですが、2026年8月29日時点で私はまだ同一年度・同一定義での比較表を確認できていません。

推測で「高い」「低い」と書くことはしません。確認でき次第、このページに追記します。

Scope

市にできること、市にはできないこと

徴収の話は、市の裁量でどこまで動かせるのかが分かりにくい分野です。税率も、時効の年数も、市が勝手に決められるものではありません。

市にはできないこと
市にできること
時効期間を変える5年という期間は地方税法第18条で決まっています。条例で延ばすことはできません。
時効を中断させる督促、差押え、納税の猶予などで時効は中断します。何もしなければ消える、という部分は市の動き方で変わります。
標準税率を自由に動かす市民税・固定資産税の標準税率は地方税法が定めています。超過課税は制度上可能ですが、市税全体の設計に関わるため徴収率の話とは別の議論です。
納付の方法を増やす納付手段や納付窓口をどこまで用意するかは、市の判断と予算で決められます。
徴収を放棄する地方自治法第231条の3などにより、市長には徴収の義務があります。「取らない」という選択はできません。
執行停止を適切に使う取れない相手から取り続けないための制度(地方税法第15条の7)を、要件に沿って使う判断は市が行います。
徴収率だけで財源を作る上で見たとおり、上限は3.56億円・1.42ポイントです。制度の外側には出られません。
徴収部門に人を置く何人を滞納整理に充てるかは市の人員配置です。増収の上限が分かっていれば、費用対効果も検証できます。

行政のどこまでが市の裁量で、どこからが国と県の制度なのか。全体像は 市の権限がどこまで及ぶか行政のしくみ にまとめています。市の予算そのものについては 予算のページ をご覧ください。

WHOSE BUDGET?

そもそも、誰の予算か

予算には階層があります——個人(家計)・市・県・国。身近でできることは身近で、という補完性の考え方に立てば、市の予算の出番は「個人や市場では解決できず、県・国の制度でも埋まらない部分」です。個人セクターの内容に市が踏み込めば、いくら予算があっても足りません。

市税の徴収は、この階層の中では珍しく市の収入そのものにあたります。増えた分は全額が市の一般財源で、使い道も市が決められます。ただし税率も時効も国が法律で決めており、市が動かせるのは「どう納めてもらうか」の運用部分だけです。お金は市のもの、ルールは国のもの——徴収の話が分かりにくいのは、この2つがねじれているからだと考えています。

Sources & Assumptions

作成:鈴木優作(三郷市議会議員/創政MISATO)
数字の誤りや、前提の置き方へのご指摘をお待ちしています。