経緯——審決書が認定した事実
審決書の「前提事実」に記載された経緯です(争いのない事実として認定されたもの)。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2025.7.20 | 三郷市議会議員一般選挙で関根和也議員が当選 |
| 8.22 / 10.6 | 市長が議長に対し「不適切と思われる言動について」の申入れ(2度) |
| 9月定例会 | 政治倫理審査会の報告を経て、議員辞職勧告決議を可決(本人を除く全議員の賛成) |
| 12.1 | 12月定例会で懲罰動議が提出され、懲罰特別委員会を設置 |
| 12.2 | 本人がSNSに投稿(「議会だけで読み上げれば良い」「反省する必要ない」等の趣旨を含む) |
| 12.3 | 「公開の議場における陳謝」の懲罰を可決 → 陳謝文朗読の際に「何て読むの、これ。」等の言動 → 質疑で「木津市長の官製談合の件について」と発言 |
| 12.3 | 除名の懲罰動議が提出され、出席議員20名のうち19名の起立により可決 |
| 12.4 | 本人が埼玉県知事に審決を申請 |
| 2026.7.10 | 埼玉県知事が審決。「本件審決申請に係る処分を取り消す。」(主文) |
審決の論理を、引用で追う
審決は「議会が全面的に間違っていた」とも「本人に問題がなかった」とも言っていません。その精密な線引きこそ、読む価値があります。
① 判断の物差し——議会の懲罰は「自律」だが「無制限」ではない
「懲罰事由に該当する行為の動機、性質、態様、結果、影響のほか、当該行為の前後における当該議員の態度、除名による影響等に鑑みて、議会がその裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合には、当該除名の懲罰は違法の評価を免れない」— 審決書「判断の枠組み」(札幌高裁令和2年12月23日判決・名古屋高裁平成25年7月4日判決等を引用)解釈
議会の懲罰は議会の自律に委ねられていますが、白紙委任ではありません。行為の重さと処分の重さの「釣り合い」が、裁判所の確立した基準で審査される——議会はこの物差しを、議決の前に当てはめる必要がありました。
② 懲罰事由は「あった」——本人に問題がなかったという判断ではない
「公職の立場にある市長の名誉を毀損する不用意かつ著しく不適切なものと言わざるを得ず、法第132条において禁止される『無礼の言葉』に該当すると認められる」— 審決書(「官製談合」発言について)
「本件投稿は議会内における非行と同等に議会の品位を貶め、直接的に権威保持の必要性に抵触するものであり、規則第151条に違反すると解する余地がある」— 審決書(懲罰の前日のSNS投稿について。「議会における懲罰権をないがしろにし、議会を愚弄する意図でなされたと解することができる」とも)解釈
審決は、関根議員の発言・投稿の一部を明確に「懲罰事由に当たる」と認定しています。取り消されたのは処分であって、言動が免罪されたわけではありません。この区別を曖昧にすると、審決の意味を見誤ると考えます。
③ しかし「態度が悪い」という心証は、懲罰の根拠にできない
「『威嚇又は小ばかにするような』『不誠実かつ挑発的』とする処分庁の評価は多分に主観的で……客観的・直接的に認定できるものではなく、よって、処分庁が当該言動のみをもって明らかな非違行為があったと判断し得たとは認定できない」— 審決書(登壇時の態度等について)解釈
議場で感じた不快感や心証と、証拠で立証できる非違行為は別物です。「みんながそう感じた」ことは、法的な処分の根拠としては通用しない——組織が感情で人を裁くことへの、明確な戒めだと受け止めています。
④ 議会の「外」での言動を、除名の理由に混ぜてはならなかった
「市役所窓口での言動や、本件投稿以外のソーシャルメディアにおける投稿は、議会外における審決申請人の個人的行為であるため、本来懲罰事由として評価することはできず」— 審決書
「処分庁は、審決申請人の議会外における言動を懲罰の種類の決定に際し考慮していると認定せざるを得ず、懲罰事由となり得ないことは明らかである」— 審決書(辞職勧告決議に従わないことを理由とする懲罰も「否定されている」と指摘)解釈
窓口での言動やSNSへの憤りは、議会にも市民にも確かにありました。しかし懲罰という制度が扱えるのは、原則として議会の中の行為だけです。議会は怒りの総量で量刑を決め、制度の射程を超えた——ここが、この審決のいちばん重い指摘です。
⑤ 結論——非行は「軽微」、除名は「著しく重大」
「除名の懲罰は、法が規定する議会の懲罰の中で最も重く、住民の信任により与えられた議員の身分を奪う重大な処分である」— 審決書
「殊更に市長を貶め、侮辱することを目的としてなされた発言とは認められないため、その非行の程度は軽微なものにとどまると言える」— 審決書(本件発言について。暴言や実力行使を伴わず、議長も発言禁止等を行っておらず「議事の進行や議会の日程に直接の影響を及ぼしていない」とも)
「処分庁が最も重大な懲罰である除名を選択したことは、その態様に比し著しく重大な懲罰を科すものであることが明らかであり、本件処分は議会の裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用した違法な処分と認められる」— 審決書(結論)解釈
問われたのは関根議員の行為の是非以上に、議会の「量刑判断」の適正さでした。除名は市民が選挙で与えた身分を、選挙によらず奪う行為です。その最終手段を、段階(戒告→陳謝→出席停止→除名)を踏む検討が十分でないまま選んだことが、違法とされました。
⑥ 議事運営について、審決書が認定したこと
審決書は、陳謝の場のやり取りを一言ずつ「前提事実(争いのない事実)」として記録しています。
「処分庁は、審決申請人を除く全議員の賛成により、審決申請人に対する陳謝の懲罰を可決した。議長から審決申請人に対し、陳謝文の朗読が命じられ、審決申請人は議場に登壇した。その後、審決申請人及び議長が以下の発言をした。
(ア)審決申請人「12月1日の本会議におきまして、私が当該本会議に出席していることに対する見解を求められたところ、何ら弁解の謝罪等の発言をせず、不誠実な行動をとりましたことは、議会の品位を保持し秩序を守るべき議員の職責を顧みて、誠に申し訳ありません。ここに誠意を・・・何て読むの、これ。」
(イ)議長「自分で考えた・・・」
(ウ)審決申請人「何て読むの。」
(エ)議長「そんなのも読めないの。」
(オ)審決申請人「うん、読めない。」
(カ)議長「ひれきし。」
(キ)審決申請人「ここに誠意を披瀝し、衷心から謝罪いたします。以上です。」」— 審決書「前提事実」より全文
「審決申請人は本件定例会における令和7年12月3日の本会議において、議長の進行に従って登壇及び発言を行っており、その態様は暴言や実力行使を伴うものではない。もとより地方議会の議長には、法第104条や規則第159条に基づき議事の整理を行う権限が認められ、議場の秩序を乱す議員に対しては、法第129条に基づく発言の制止、発言の禁止又は議場外への退去命令を行うことが可能とされているところ、提出された会議録及び処分庁の陳述によれば、議長は同本会議において同条に基づく発言の禁止等を行っていないことからも、審決申請人が議事の進行や議会の日程に直接の影響を及ぼしていないことが窺われる」— 審決書「除名の懲罰について」
「陳謝文に記載された『披瀝』という言葉について、審決申請人が『これなんて読むの。』と尋ねたことが不誠実と判断されたと考えるが、これは処分庁が読み仮名を振らなかったためである。また、議長への問いかけに対し『そんなのも読めないの。』と回答したことは侮辱罪に抵触する暴言である」— 審決書が記載する審決申請人の主張(審決はこの主張の当否には踏み込んでいない)解釈
審決はこの場面から、2つの事実を確認しています。ひとつ、申請人は「議長の進行に従って」登壇・発言し、暴言も実力行使も伴わなかったこと。ふたつ、法129条に基づく発言の制止・禁止・退去命令は同本会議で行われていないこと。地方自治法は議場の秩序維持のための段階的な手段(法104条・129条、規則159条)を用意しており、審決は「それらが使われていない」という記録を、議事の進行や日程への直接の影響がなかった——つまり非行が軽微であったことの裏づけとして用いました。なお、朗読された陳謝文は議会の側が用意したもので、申請人は読み仮名が振られていなかったと主張しています。読めなかった側のこの場での態度は同日の除名動議の理由の一部となり、読み方を問われた議長席の応答について、審決は当否を判断していません。
議場のやり取りをその場でどう整理し、懲罰の議論へどうつなぐかは、議会運営の根幹に関わる論点です。この論点は、下の「検証されるべき8つの論点」の「議事運営」に含めています。
⑦ 付言——県は、双方に注文をつけた
「たとえ議会外における行為であっても、議会内における行為と同等にその紀律を乱し、品位を傷つけるものである場合には、議会の活動と密接な関連を有するものとして懲罰事由となり得る。また……『木津市長の官製談合の件について』という言葉の選択は著しく不適切であると言わざるを得ない。審決申請人にあっては、今後は、自身の言動に疑念を持たれることのないよう、一層の配慮に努められたい」— 審決書「付言」解釈
付言は、議会側には「議会外の行為も要件を満たせば懲罰の対象になり得る」という道筋を示し、関根議員には言動への配慮を求めています。県は議会だけを断罪したのではなく、双方に宿題を出した——ここまで含めて読むのが、この審決への誠実な向き合い方だと思います。
AIによる分析——問題点を数値で整理する
AIによる重み付け(審決書に割合の記載はありません)
審決書で「処分庁」と呼ばれているのは、除名を議決した三郷市議会そのものです。審決書は問題点を並列に指摘するだけで、どれが何割という重み付けはしていません。以下は、審決書の全文を生成AI(Anthropic Claude)に読み込ませ、各問題の寄与度を分析・数値化させた結果をそのまま掲載したものです。AIの評価であり、公式の数値でも私の断定でもありません——異論・別の重み付けを歓迎します。
軸① 法的な寄与度——審決は、どこを決め手に「違法」としたか
違法性の本体です。懲罰事由自体は認めたうえで、「非行の程度は軽微」なのに最も重い除名を選んだことが「その態様に比し著しく重大な懲罰」として、裁量権の逸脱・濫用とされました(⑤)。
不均衡を生んだ最大の材料。窓口での言動や過去のSNS投稿など「懲罰事由となり得ない」ものを、懲罰の種類の決定に際し考慮したと認定されました(④)。
「威嚇又は小ばかにするような」「不誠実かつ挑発的」という処分理由の中核が「多分に主観的」とされ、懲罰事由から脱落しました(③)。
審決では「非難」としてではなく、議事への影響がなく非行が軽微だったことを裏づける事実として扱われています(⑥)。
軸② 再発防止の優先度——同じ結論に至らないために、どこにチェックを置くか
戒告→陳謝→出席停止→除名の順に検討し、議決の前に判例基準(①)を確認する仕組み。出席停止の意見があったことは処分庁自身が県に述べています(⑤)。
制止・発言禁止・退去命令(法129条)など、議場でその場で使える手段を検討し、記録に残す運用(⑥)。本件では、これらの手段が使われないまま、同じ日のうちに最も重い懲罰の議決へ進みました。
「懲罰の対象は原則として議会内の行為に限る」という判例上の原則を、動議の起案段階でチェックする運用(④)。
「態度」のような主観的な心証ではなく、会議録など客観的な記録に基づいて認定する習慣づけ(③)。
※ AIの分析結論: 法的な決め手は量刑の不均衡(軸①)。再発防止の観点では、最重罰に至るまでの各段階——量刑の検討、議事の整理、対象範囲の確認、事実の認定——のそれぞれに事前のチェックポイントを設けることが有効で、単独の「原因」や「責任者」を特定する構図では捉えきれない、というのがAIの分析です。この分析が、下の「検証されるべき8つの論点」の土台になっています。
事実の引き受けと、これから
事実の確認
本件の除名議決には出席議員20名のうち19名が賛成し、私もその一人です。議会が可決した処分が違法と認定された以上、その責任は賛成した議員全員が負うものです。 このページは、その当事者の一人による検証の記録です。
私の考え——市民サービスの向上という観点から
市民サービスの向上とは、三郷市で働く1,000人近い職員の皆様が、この街と仕事に誇りを持ち続けられること。評価が属人的な関係性ではなく明確な基準に基づき、結果を出した人が正しく報われること。その組織力を、さらに確かなものにしていくことだと、私は考えています。
その観点から見たとき、市の最高意思決定機関である市議会の下した処分が、埼玉県によって「議会の裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用した違法な処分」とされました。これは、市議会が法令遵守のラインを見極められていなかった事実を突きつけるものでした。
個人の過去の言動をどう評価するかと、その処分が適法だったかは、分けて考える必要があります。私が重く受け止めているのは、後者です。
行政で働くすべての人のパフォーマンスを高め、適切に評価し、市民サービスを向上させる——その土台を支えるべき市議会が、最高意思決定機関としての判断を誤った。これは、行政や職員の問題ではありません。三郷市という組織が、属人的な判断ではなく、制度と仕組みによって一人ひとりが活躍できる。そのための土台をつくるべき立場にありながら、私たち自身の組織のガバナンスが働かず、評価の判断を誤った。改めてこの事実を、私は重く受け止めています。
また、審決の時期が見えていた局面で、慣例に反する任期途中での議長職の辞任がありました。私自身、その辞任に反対しなかった立場です。そのうえで申し上げれば——後に「本件の責任をとっての辞任だった」と位置づけるための選択だったのではないか。市民の目にそう映ってしまうことを、私は危惧しています。だからこそ本件は、すべてのプロセスを事実ベースで検証し、私たち自身に問い直さなければなりません。
判断が属人的になっていなかったか。ガバナンスは、きちんと機能していたのか。過去を適切に振り返り、皆さんに報告すること。それが、私たちのやるべきことだと信じています。
検証されるべき8つの論点
問われているのは個々の議員の判断だけでなく、議会という組織のガバナンスそのものです。次の8点は、まず所属会派(創政MISATO)の中で議論を重ねている論点です。議会全体への提起は、会派としての考えを固めた先の段階になります。
- 量定の妥当性 — 段階(戒告→陳謝→出席停止→除名)を踏む検討をしたか
- 懲罰の範囲 — 議会外の言動を判断材料に混ぜなかったか
- 議事運営 — 秩序保持の段階的な手段(制止・発言禁止・退去命令)を含む議事整理のあり方は適切だったか
- 事実と感情の切り分け — 心証ではなく証拠で認定したか
- 第三者性の確保 — 当事者だけで裁いていなかったか
- 透明性 — 市民が検証できる記録を残したか
- ルール設計 — 懲罰手続きの基準を明文化しているか
- 法的視点の導入 — 議決前に判例・法解釈を確認する仕組みがあるか
市民に信を問い直すという選択肢
議会全体の判断が違法とされた場合の最も重い選択肢として、「地方公共団体の議会の解散に関する特例法」に基づく議会の自主解散——市民に信を問い直す手続き——が制度上存在します。 仮に自主解散を市長選と同日に行う場合の選挙経費への影響は、選挙コスト試算のページ → で確かめられます。