地方自治法が定める、議員の職責
「議員の職務」は、2024年から法律に明記されています
実は、地方自治法には長いあいだ「議員の職責」を正面から定めた条文がありませんでした。令和5年改正(令和6年4月1日施行)で初めて、議会と議員の役割が明文化されました。
「前項に規定する議会の権限の適切な行使に資するため、普通地方公共団体の議会の議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない」
— 地方自治法89条3項
注目すべきは構造です。議員の職務は「議会の権限の適切な行使に資するため」にある——つまり法律が定める議員像は、個人で活動する存在ではなく、議会という機関の権限行使を支える担い手です。
なぜ、2024年になって明文化されたのか
きっかけは、地方議員のなり手不足です。統一地方選のたびに無投票当選が広がり、候補者が定数に満たない町村まで現れました。議員構成は高齢の男性に偏り、女性・若者・会社員がほとんど入ってこない——地方議会の持続可能性そのものが揺らいでいました。
全国の都道府県・市・町村の三議長会は「議会と議員の位置づけを法律に書いてほしい」と国に要望し、これを受けた第33次地方制度調査会が優先課題として審議。令和4年12月の答申「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策」を経て、令和5年改正で明文化に至りました。
背景にある問題意識はこうです。議員という仕事は、報酬も身分もあるのに「何をする仕事か」の定義が法律のどこにもなかった。その空白に曖昧なイメージが流れ込み、社会的な位置づけが定まらないままでは、住民の関心も、多様な人材の立候補も生まれない。だからまず役割を法律で「見える化」する——。このページで職責を言葉にしているのも、まったく同じ問題意識からです。
市長と議会は「別の乗り物」——二元代表制
市長も議員も、それぞれ市民が直接選びます(憲法93条)。約1,000人の組織を率いて行政を「実行」するのが市長。その実行を「決定し、監視する」のが議会です。実行部隊とチェック部隊を市民が別々に選ぶ——この分業が地方自治の設計図です。
議会の権限——議員が合議で使う「道具箱」
決める——条例の制定改廃・予算・決算の認定・重要な契約や財産の処分は、議会の議決がなければ動きません(96条)。予算の増額修正もできます(97条2項)。
監視する——事務の検査・監査請求(98条)、証人喚問や記録提出まで求められる強力な調査権(100条)、市長・職員への出席説明の要求(121条)。
提案する——議員定数の12分の1以上の賛成で議案を提出でき(112条)、議案の修正動議も出せます(115条の3)。
声を届ける——国や県へ議会として意見書を提出し(99条)、市民からの請願を紹介・審査します(124条)。
議員の身分と規律
任期は4年(93条)。国会議員や自治体の常勤職員等との兼職は禁止(92条)、市の請負関係にも制限があります(92条の2)。議場では品位の保持が求められ(132条)、違反には懲罰の制度があります(134条〜)。議員活動の原資として議員報酬(203条)と政務活動費(100条14項)が定められています。
条文を並べると、見えてくること
法律が議員個人に与えている権限は、実はほとんどありません。議決も、調査も、意見書も、すべて「議会」という合議体の権限です。議員はその構成員として、1票を投じ、動議を出し、質問することで権限行使に参加します。そして——個別の事案に行政の外から介入する権限は、どの条文にもありません。法が想定する議員は、個別解決の代行者ではなく、組織のチェックと意思決定の担い手です。次のセクションの私の考えは、この法の設計と地続きです。
個別事案は、担当部が解決すべきです
最も速く、正確に解決できるのは担当部だから
道路の補修、ごみの収集、手当の申請、学校のこと——市役所には分野ごとの担当部と、約1,000人の職員がいます。個別の事案を、権限と情報と専門性を持って解決できるのは担当部です。議員は個別事案の解決者としては、担当部に勝てませんし、勝つべきでもありません。
なぜ「議員が解決」してはいけないのか
担当部で解消できない事案を、議員の口添えで解決してしまう——一見「頼れる議員の良い仕事」に見えます。しかし、これは公共の利益に反することがあります。理由は3つです。
① 公平性が壊れる——議員を知っている人だけが、早く・例外的に解決される。声の大きさや人脈で行政の順番や基準が変わる街は、議員を知らない大多数の市民にとって不公平です。
② 制度の欠陥が隠れる——担当部で解決できないのは、多くの場合、基準や手続きや予算に原因があります。個別に「例外」で解決してしまうと、その原因が表に出ないまま残り、次の人が同じ場所でまた困ります。
③ 組織が属人化する——ルールより関係性が優先される経験を重ねると、職員の判断基準は「誰の案件か」に歪みます。明確な基準で仕事をし、結果で評価される組織づくりの、正反対に向かいます。
では、議員は何をするのか——「つなぐ」と「直す」
お困りごとの相談は、もちろん伺います。そのうえで私がやるのは2つです。
つなぐ——正しい窓口・担当部へご案内します。優先扱いは求めません(「ねじ込む」と「つなぐ」は別物です)。
直す——同じ相談が繰り返されるなら、それは個人の問題ではなく制度の問題です。ここからが議員の出番で、一般質問・条例・予算のチェックを通じて「同じ困りごとが起きない仕組み」に直します。
1件を例外で救う政治より、100件が起きなくなる制度を。それが1,000人の組織をチェックする側の仕事だと考えています。
チェックは「あら探し」ではなく、組織パフォーマンスを高める仕事
誤解されがちですが、議会のチェック機能の目的は、行政の失点を探すことではありません。約1,000人の職員がこの街と仕事に誇りを持ち、属人的な関係性ではなく明確な基準で評価され、結果を出した人が正しく報われる——その組織パフォーマンスを高めることこそ、私たち議員に求められている仕事だと考えています。
予算のチェックも、一般質問も、制度の提案も、すべてはこの一点のためにあります。組織のパフォーマンスが上がれば、市民サービスは必ず良くなる。逆に、個別の例外をつくる関わり方は、基準を曖昧にし、組織の力を確実に削ぎます。だから議員の力は、例外づくりではなく、仕組みの改善に使う——このページの結論は、ここに尽きます。
反対意見にも、答えます
「困っている市民を助けてこそ議員だろう」
その通りです。問題は「助け方」です。目の前の1人を例外で救うと、列に並んでいる見えない99人の順番が下がります。私は、1人への例外ではなく、100人に効く仕組みの修正で助けたい。なお、緊急性のある事案を担当部へ即座につなぐことは、ためらいません。
「口利きも含めて政治力だ」
その政治力は、議員とつながりのある人にしか働きません。つながりの有無で結果が変わる行政は、属人的な関係性で動く組織です。私は、誰が相談しても同じ基準で同じ結論になる市役所のほうが、強い組織だと考えています。だからこそ議員の力は、個別の例外ではなく、基準そのものの改善に使います。
「きれいごとで、結局何もしてくれないのでは」
「つなぐ・直す」は、何もしないことではありません。窓口のご案内、対応結果の確認まで行い、制度の問題は一般質問や予算審議で実際に取り上げています。個別の便宜は図りませんが、放置もしません。この線引きを、当選のときから変えていません。
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