なぜいま、このページを作ったか
令和8年熊本地震——2026年7月28日
昨日16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生。宇城市・氷川町で震度7を観測し、有明・八代海に津波注意報が出されました(18時10分に全解除)。気象庁はこれを「令和8年熊本地震」と命名しています。気象庁が地震を命名するのは、2024年の令和6年能登半島地震以来です。
被害の全容は、いまも把握が続いています。熊本県の発表では、7月29日14時時点で432カ所の避難所に8,886人が避難されています。人的被害についても、亡くなられた方・負傷された方の確認が進められている最中です。
※被害状況は刻々と変わります。上記は同時点の集計です。人的被害の数は機関により集計方法・時点が異なり、確定していません。最新は気象庁・消防庁・熊本県および各自治体の発表をご確認ください。
被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を願っています。
三郷でも、同じことが起こりえます
いま避難所で過ごしている方々の環境は、どうなっているのか。トイレは足りているのか。床に雑魚寝ではないか。——それは、いつか三郷で起きる日の、私たちの姿でもあります。
三郷には地震だけでなく、水害のリスクもあります。江戸川・中川に挟まれた低地で、市域の多くがハザードマップの浸水想定に入っています。人口14万人が暮らすまちで、もし大規模な避難が必要になったとき——市の備蓄は何人分あるのか。避難所に何が置いてあるのか。報道が続いている今なら、少し具体的に想像できると思います。
このページは、①国の基準は何をどれだけ求めているのか ②設備には何があるのか ③三郷はいまどうなっているのか——この3点を、出典つきで整理したものです。
避難所の環境は、命に直結する
能登では、災害関連死が直接死を上回った
令和6年能登半島地震の死者・行方不明者594名のうち、災害関連死は364名(令和7年5月13日時点)。建物の倒壊などによる直接死228名を上回りました。死因は循環器系34%・呼吸器系33%で約3分の2、80代以上が約8割を占めます(死因は公表158名・年齢は公表136名を母数とする令和6年11月21日時点の分析)。
助かった命が、その後の環境で失われている——これが、避難所の設備を考える出発点です。
トイレが足りないと、人は水を飲まなくなる
国のガイドラインは、この連鎖を明確に図示しています。トイレが不足・不衛生 → 使うのを我慢する → 水分や食事を控える → 脱水・エコノミークラス症候群・体調悪化。新潟県中越地震では「トイレが不安で水を飲むのを控えた」人が小千谷市で33.3%にのぼりました。
トイレは"我慢できるもの"ではなく、最優先で確保すべき生命維持装置です。
国の基準——何が、どこまで決まっているか
ここが最も誤解されやすいところです。数値は「指針」に書かれていますが、法律上の義務ではありません。区別して見てください。
災害対策基本法は「良好な生活環境の確保に努めなければならない」と定めるだけ。努力義務で、罰則もありません。指定避難所の要件を定めた政令にも「必要かつ適切な規模」とあるだけで、何㎡・何人に1基といった数字はどこにも書かれていません。
3.5㎡・50人に1基などの数値は、内閣府のガイドライン(指針)にあります。2024年12月13日、能登半島地震を受けた改定で、国際基準(スフィア基準)に沿った数値が初めて明記されました。ただし指針は技術的助言——守らせる強制力はありません。
災害救助法にもとづく国の負担額は告示で明確です(避難所設置は1人1日370円以内など)。ただし被害の状況に応じて「特別基準」で引き上げ・延長ができます。「お金がないからできない」とは、必ずしも言えません。
つまり——国は「こうしてください」と数字で示したが、義務づけてはいない。だから、3.5㎡やトイレ50人に1基を実際に用意できるかどうかは、その市町村がどれだけ備えているかで決まります。
| 項目 | 数値・内容 | 位置づけ | 出典・注記 |
|---|---|---|---|
| 居住スペース | 1人あたり最低 3.5㎡ | 国の指針 | 内閣府「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(令和6年12月改定)。スフィア基準に沿った数値。 |
| トイレ(当初) | 避難者 50人に 1基 | 国の指針 | 内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)。改定前は「約50人に1基」と「目安」「望ましい」の表現だったが、改定で「〜すること」と規範性が強まった。 |
| トイレ(長期化) | 避難者 20人に 1基 | 国の指針 | 同上。スフィア基準に基づく数値。 |
| トイレの男女比 | 女性用:男性用 = 3:1 | 国の指針 | 同上。女性の方が使用時間が長く、行列と我慢につながるため。 |
| 入浴 | 50人に 1つ・男女別 | 国の指針 | 内閣府 取組指針(令和6年12月改定)。入浴機会の確保は従来からあり、「50人に1つ・男女別」という数値が新たに明記された。 |
| ベッド・パーティション | 「避難所の開設時に設置」 | 国の指針 | 内閣府 避難所運営等ガイドライン(令和6年12月改定)。日数ではなく"開設時"と規定。 |
| 備蓄(家庭) | 最低3日分・推奨1週間 | 国の指針 | 防災基本計画。※これは家庭内備蓄の推奨で、避難所の設備基準ではない。 |
| 指定避難所の要件 | 「必要かつ適切な規模」等 | 法令 | 災害対策基本法施行令 第20条の6。安全性・規模・輸送の利便性などを定性的に規定し、㎡/人などの数値はない。 |
| 生活環境の整備 | 「努めなければならない」 | 法令 | 災害対策基本法 第86条の6。=努力義務。罰則はなく、上の数値も達成を義務づけるものではない。 |
2024年12月、国の指針が大きく変わりました
能登半島地震を受け、内閣府は避難所関連の3文書を同時に改定しました。それまで面積の数値は指針に書かれておらず、トイレも「約50人に1基(一つの目安として)」という表現でした。改定後はスフィア基準(国際的な人道支援の最低基準)に沿った数値が明記され、「目安」という留保も外れています。
指針の名称も「避難所における…」から「避難生活における…」へ。場所を用意する支援から、人の生活を支える支援へ——考え方の転換です。
お金の基準は、告示で決まっている
数値基準が乏しい一方で、災害救助法で国が負担する金額は告示で明確です(令和8年度・令和8年3月31日内閣府告示第18号)。
・避難所の設置 1人1日あたり 370円以内 / 原則7日以内
・炊き出しなど食品の給与 1人1日あたり 1,480円以内
・福祉避難所の生活相談職員 おおむね10人に1人
※これらは一般基準で、被災の状況に応じて「特別基準」により引き上げ・延長が可能です。「国は1日370円しか出さない」という理解は正確ではありません。国庫負担率は自治体の税収規模に応じて50〜90%。
国・県・三郷市——どこに、何が書かれているか
同じ「基準」でも、書かれている場所が違えば強制力も違います。三層に分けて見ると、はっきりします。
| 層 | どこに書かれているか | 1人あたり面積 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 国 | 災害対策基本法+内閣府の指針・ガイドライン 法律本体に数値はない | 3.5㎡ | 「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」令和6年12月改定 |
| 埼玉県 | 数値は地域防災計画 資料編の「避難所の運営に関する指針」に 条例ではなく、計画・指針に定める形 | 3.5㎡ | 埼玉県「避難所の運営に関する指針」令和7年11月改正。スフィア・ハンドブックを踏まえたと明記 |
| 三郷市 | 地域防災計画+備蓄計画+避難所開設運営マニュアル 国・県と同じく、計画・指針に定める形 | 3㎡ | 三郷市地域防災計画 第2編 p.2-51(令和4年3月修正)。国の改定・県の改正が、まだ反映されていません |
数値は、条例ではなく「計画」に書かれています
避難所の面積やトイレの数は、国でも県でも市でも、条例ではなく計画や指針に定められています。三郷市の条例は防災会議条例・災害対策本部条例など組織の作り方を定めるもの、県で避難所に触れるのは「震災予防のまちづくり条例」第12条の耐震性——という具合です。
これは三郷に限った話ではなく、日本全体でそうなっています。計画は機動的に見直せる利点がある一方、数値の重みは条例より軽くなります。そういう仕組みの上に、避難所の環境は成り立っている——まずはそこを知っておきたいところです。
設備には、何があるのか
カテゴリをタップすると、種類ごとの利点と課題が開きます。「良いものを入れる」だけでなく、いつ届くか・誰が使えるかまで見るのが要点です。
トイレ4種類
国は令和6年12月の改定で、トイレカー・トイレトレーラーの確保を新たに位置づけました。埼玉県内ではふじみ野市が令和7年10月に導入しています。
寝床・プライバシー4種類
国の指針は「床に長期に横たわっているとエコノミークラス症候群だけでなく、埃等を吸い込むことによる健康被害も心配される」とし、立ち上がりやすいベッドの導入は生活不活発病の防止にも効果的としています。
電源5種類
性能は製品により大きく異なるため、稼働時間などの数値はここでは示しません。導入時は「何を・何時間動かすか」から逆算した確認が必要です。
通信3種類
情報が届かないこと自体が不安と混乱を生みます。とくに要配慮者や外国人への情報の届け方は、設備と運用の両面が要ります。
熱環境・空調2種類
公立学校体育館の空調設置率は全国22.7%、埼玉県29.9%に対し東京都は92.5%(文部科学省・令和7年5月1日現在)。国の交付金は「断熱がなければ対象外」「電源確保工事も対象」と、現場の課題を制度に織り込んでいます。
水・入浴・洗濯・食4種類
令和6年12月の改定では、キッチンカーやセントラルキッチン方式、調理人の派遣、そして入浴・洗濯の機会の確保が新たに盛り込まれました。
要配慮者・多様性への配慮4種類
女性用品の備蓄が「置いていない避難所がある」という調査もあります(千葉市の備蓄品一覧では0〜330枚と施設差)。誰の視点で備えたかが、そのまま現れます。
「TKB」と、最初の3日間
TKB=トイレ・キッチン・ベッド
避難所の質を決める3点を、頭文字でTKB(Toilet・Kitchen・Bed)と呼びます。「TKB48(48時間以内に)」という言葉が知られていますが、これは避難所・避難生活学会が提唱するもので、国の基準ではありません。
そして——国の要求は、48時間よりさらに早い。国の避難所運営等ガイドラインは、ベッドとパーティションを「避難所の開設時に設置」と規定しています。
最初の3日間は、備蓄しか手段がない
外から支援が届くまでには、時間がかかります。東日本大震災で仮設トイレが3日以内に行き渡った自治体は34%にとどまり、最も遅い自治体では65日を要しました。能登でも段ボールベッドの到着は避難所によって差があり、約2週間、床に雑魚寝だった避難所もありました。
つまり初動を左右するのは、その日までに市が持っているものです。ここが備蓄の意味であり、協定の意味です。
三郷は、ここまで備えています
市が公表している数字を見ていくと、三郷の備えは決して見劣りしません。むしろ、県内でも先を行っている部分があります。
体育館の空調——三郷は、全校で設置済み
公立学校の体育館の空調設置率は、全国22.7%、埼玉県は29.9%(文部科学省・令和7年5月1日現在)。多くの自治体で、避難所となる体育館は夏に灼熱、冬に極寒のままです。
その中で三郷市は、全小中学校の屋内運動場(体育館)と特別教室への空調設置を、すでに完了しています(令和元年12月〜令和3年3月に工事完了/「令和7年度 三郷市の教育」)。つまり県平均の3倍以上の水準を、5年も前に実現していたということです。夏の熱中症、冬の低体温——命に直結する熱環境という点で、三郷は明確に先を行っています。
「7,541人分」を、数字で公開している
三郷市は、想定避難者数7,541人(避難所4,525人+避難所外3,016人)を対象に備蓄を進めていると公表しています。備蓄品は各避難所の倉庫と、市内7カ所の集中備蓄倉庫に保管。
「何人分を、どこまで揃えたか」を品目ごとの達成率まで公開している自治体は、実は多くありません。埼玉県が「備蓄状況を年1回公表する」と地域防災計画に定めたのは令和8年3月ですが、三郷市はそれ以前から公開しています。備蓄の中身が市民に見える——これも、誇れることの一つだと思います。
品目ごとの達成率も、公開されています
市の備蓄計画(令和8年5月改訂)が示す、令和7年度末の備蓄率です。食料・毛布・生理用品・おむつ・仮設トイレなどは100%に達しています。下は、整備が続いている品目です。
出典:三郷市備蓄計画(令和2年4月策定・令和8年5月改訂)。備蓄率は令和7年度末時点。
ベッドの目標は、75歳以上の人数から積算されています
簡易ベッドの目標719台には、はっきりした算定根拠があります。避難所避難者4,524人 × 15.9%(75歳以上の割合)=719台。まず最も配慮が必要な方から確実に、という考え方です。
一方で国のガイドラインは、ベッドとパーティションを「避難所の開設時に設置」と求めており、床に寝ることの健康被害(エコノミークラス症候群、埃の吸入)を指摘しています。優先順位から始めて、どこまで広げていくか。段ボールベッドは協定による調達も含めて増やせる分野です。
避難行動要支援者の名簿と、個別避難計画
災害時に手助けが必要な方(避難行動要支援者)の名簿には15,455人が登載されています。うち名簿の提供に同意しているのは8,858人(約57%)。そして個別避難計画は1,357人分(令和7年3月31日時点。前年の1,598人からは減少)。98の団体が協定を結び、地域と一緒に進めています。
個別避難計画づくりは全国的にも道半ばで、国も策定を努力義務としたばかりの分野です。対象となる方が増える一方で計画づくりが追いつきにくい——ここは、地域の力が問われるところでもあります。
それでも、備えに終わりはない
三郷はよく備えている——それを前提にしたうえで、平時のうちに考えておきたいことを書き留めます。
計画の見直しは、これから
三郷市の地域防災計画が修正されたのは令和4年3月。その後、国は令和6年12月に指針を改定し、県も令和7年11月に指針を改正しました。1人あたりの面積は、国と県が3.5㎡、市の計画は3㎡です。
この差は、収容人員にすると21,518人と約18,400人——3,000人以上になります。国の改定からまだ1年半、県の改正からは半年ほど。計画は数年ごとに見直されるものなので、次の修正でどう反映されるかを、楽しみに見ていきたいところです。
頭の片隅に置いておきたいこと
① 水の確保。備蓄に加えて、協定による供給や給水車、そして各家庭の備え——三つを合わせて考える必要があります。
② ベッドを、どこまで広げるか。優先度の高い方から整備が進んでいます。国が求める「開設時の設置」にどう近づけていくか。
③ 個別避難計画を、地域とどう広げるか。対象者が増える中で作成が追いつきにくい状況です。行政だけでは進まず、町会・自治会と一緒に積み上げていく分野です。
④ 足りない分を、外からどう呼ぶか。三郷は67件の災害協定を持ち、トイレトレーラーも1台あります。国の災害対応車両登録制度(D-TRACE・令和7年6月運用開始)のような、新しい仕組みも増えてきました。
三郷は、水害で「市域のほぼ全域」が浸水しうるまちです
これは市の公式資料の言葉です。三郷市地域防災計画の概要は、利根川・江戸川・中川それぞれの氾濫について「市域のほぼ全域が浸水する」と記し、「0.5m以上の浸水深でみると…市内のほぼ全域にわたる予想です」としています。
地震だけでなく、水害でも大規模な避難が起こりうる。備蓄の目標が7,541人分であること、そして人口が14万人であること——この二つの数字を並べて、どう考えるか。答えを出すのは、私一人ではありません。市民の皆さんと、市と、議会とで考えていくことだと思っています。
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