「百条」は、条文の番号です
正式な名前ではありません。地方自治法の100条に定められているから「百条委員会」と呼ばれています。条文にはこの言葉は一度も出てきません。
この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。
(……)は除外規定の省略。中身は下の「できないこと」で触れます。
前半と後半で、書かれていることが違います。前半は「調査ができる」という一般的な権限。これは常任委員会でも日常的に行っています。後半が特別です——「特に必要があると認めるとき」に限って、人を呼び、話をさせ、書類を出させることができる。
——委員会そのものは、地方自治法109条にもとづく「特別委員会」として置かれます。
何ができるのか
→ 6か月以下の拘禁刑、または10万円以下の罰金(100条3項)
宣誓したうえで、嘘をつく
→ 3か月以上5年以下の拘禁刑(100条7項)
しかも議会は、これらにあたると認めるときは「告発しなければならない」——できる、ではなく、義務です(100条9項)。
ここが、ほかの調査と決定的に違うところです。一般質問で聞いても、答えなくても罰はありません。常任委員会の調査も同じです。百条委員会だけが、刑事罰を背景に持っています。
ただし救済もあります。嘘をついた人が調査終了の議決より前に自白したときは、刑を軽くしたり免除したりできる(100条8項)。議会も、その場合は告発しないことができます(100条9項ただし書き)。
できないこと、限界もあります
| 制約 | 中身 |
|---|---|
| 調べられる範囲 | 「当該普通地方公共団体の事務」に限られます(100条1項)。三郷市議会が調べられるのは三郷市の事務であって、国や県の事務そのものではありません。ただし調査のために市内の団体等へ照会し、記録の送付を求めることはできます(同10項。求められた側は応じなければなりません)。 |
| 市の事務でも、外れるもの | 1項の括弧書きに除外が置かれています。自治事務のうち労働委員会・収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるもの、法定受託事務のうち国の安全を害するおそれがあることなどを理由に政令で定めるもの。これらは市の事務であっても、議会の調査の対象になりません。 |
| 職務上の秘密 | 公務員が「職務上の秘密に属する」と申し立てたときは、その官公署の承認がなければ証言・記録提出を請求できません(100条4項)。ただし承認を拒むには理由の疎明が要り、議会がそれを不十分と認めれば「公の利益を害する」旨の声明を要求できます(5項)。20日以内に声明がなければ、本人は証言・提出をしなければなりません(6項)。 |
| 逮捕・捜索はできない | 準用されるのは民事訴訟の証人尋問の規定で、過料・罰金・拘留・勾引に関する規定は除かれています(100条2項)。議会が直接、身柄を拘束したり家宅捜索したりはできません。 |
| お金の枠 | あらかじめ、調査に必要な経費の額を定めておかなければなりません(100条11項)。その額を超えるときは、改めて議決が必要です。 |
とくに経費をあらかじめ決めておくという定めは、実務上おおきな意味を持ちます。設置を議決する時点で、どれくらいの規模で、どこまで調べるつもりなのかを見積もる必要があるということです。
三郷市議会では、どう立ち上げるのか
条文をたどると、次の順序になります。三郷市議会の議員定数は24人です。
①議案として出す——議員が議案を提出するには定数の12分の1以上の賛成が要ります(自治法112条2項)。三郷市議会は定数24なので2人以上。会議規則14条により、賛成者とともに連署して議長に提出します。
②動議として出す——他に2人以上の賛成者があれば議題にできます(会議規則16条)。
いずれも会派の要件はありません。市長側から提案されるものではなく、議会が自分で始めるものです。
なお実務では、異議の有無を確認して全会一致で決することも少なくありません。
2 特別委員の定数は、議会の議決で定める。
3 特別委員は、特別委員会に付議された事件が議会において審議されている間在任する。
ほかの手続きと、何が違うのか
| 百条委員会 | 政治倫理審査会 | 懲罰動議 | |
|---|---|---|---|
| 目的 | 市の事務を調べる | 議員の倫理基準違反を確かめる | 議員を罰する |
| 対象 | 市の事務全般(職員・市長・市民・関係者) | 議員 | 議員 |
| 始めるのに必要な数 | 議案なら賛成2人以上(定数の12分の1)/動議なら賛成2人以上。設置は過半数の議決 | 議員6人かつ2会派以上、または有権者の50分の1 | 3人で発議(定数の8分の1) |
| 強制力 | 出頭・証言・記録提出の請求。刑事罰あり | なし | なし(結果としての懲罰はある) |
| 市民が使えるか | 使えない(議会が決める) | 使える | 使えない |
| 根拠 | 地方自治法100条・109条 | 三郷市議会議員政治倫理条例 | 地方自治法134〜137条 |
いちばん大きな違いは対象の広さです。政治倫理審査会も懲罰も、対象は議員だけ。百条委員会は市の事務そのものを調べる仕組みで、執行機関である市長や職員も対象になります。
もうひとつは入口の広さです。政治倫理審査会は6人かつ2会派以上が必要ですが、百条委員会を議会に諮るだけなら、提案者のほかに2人の賛成があれば足ります。ただし設置には過半数の議決が要るので、実際に立ち上げるには議会全体の合意が必要になります。
——強い権限だからこそ、議会の多数が「これは調べるべきだ」と判断したときにだけ動きます。
この制度を、どう見るか
百条委員会は、二元代表制の下で議会が持っている、最も強いチェックの手段です。市長と議会がどちらも選挙で選ばれる仕組みだからこそ、議会には執行機関を調べる権限が与えられています。
同時に、強すぎるがゆえの危うさもあります。刑事罰を背景に人を呼び出す仕組みですから、使い方を誤れば、それ自体が誰かを追い詰める道具になります。設置に過半数の議決を求め、経費をあらかじめ定めさせ、職務上の秘密に手続きを設けているのは、その歯止めだと思います。
——だからこそ、使うときも、使わないときも、その理由を説明できることが要ると考えています。