約束した代金を、
途中で見直す決まり。
市の工事は、契約した金額で最後まで仕上げるのが基本です。けれど、大きな建物の工事には1年、2年とかかります。
そのあいだに職人さんの賃金や材料の値段が急に上がると、最初の金額のままでは工事を続けにくくなります。そこで、残りの工事の代金だけを、あとから見直せるようにしておくのが、インフレスライド条項です。
三郷市では「三郷市建設工事請負契約約款」の第26条第6項に書かれています。
三郷市は、この順番で増える額を計算していると議会で答えています(令和8年6月定例会)。
スライド条項は、
3種類ある。
国の標準の契約書(公共工事標準請負契約約款)の第26条には、値段の変わり方に合わせた3つの見直し方が並んでいます。
- 全体スライド(第26条第1〜4項)契約から12か月が過ぎたあと、賃金や物価が変わって代金が合わなくなったときに使います。受注者(工事会社)は、残りの工事代金の1.5%までを自分で負担します。
- 単品スライド(第26条第5項)鉄や燃料など、主な材料の値段だけが大きく変わったときに使います。受注者の負担は、対象の工事代金の1%です。
- インフレスライド(第26条第6項)急激なインフレーションやデフレーションで、代金が合わなくなったときに使います。12か月の条件はなく、残りの工期が2か月以上なら使えます。受注者の負担は、残りの工事代金の1%になります。
知っておきたい
4つのこと
- 請求できるのは、市と工事会社の両方契約書には「発注者又は受注者」が請求できると書かれています。値段が下がったときは、市のほうから代金を下げるよう求めることもできます。
- 見直すのは、残りの工事だけ基準日(原則は請求した日)より後に行う工事だけが対象です。すでに終わった部分の代金は変わりません。
- 工事会社も1%を負担する上がった分をそのまま払うのではなく、残りの工事代金の1%は工事会社が引き受けます。この1%は、天災などの不可抗力のときの負担に合わせた数字です。
- 始まりは平成26年国土交通省は平成26年1月30日に、賃金などの急な変動に対するこの条項の運用を示しました。三郷市の運用基準は、平成26年5月1日から使われています。
国が毎年決める公共工事の人件費の単価(公共工事設計労務単価、全国全職種の平均)は、ここ数年、大きく上がり続けています。
防災プラザの工事費は、
なぜ増えたのか。
三郷市の南部防災拠点「みんなの防災プラザみさと」(鷹野三丁目)は、建築・機械・電気の3つの工事に分けて契約しています。3つの合計は、当初の23億2,188万円から、いまは23億8,190万5,680円です。
増えた分のほとんどはインフレスライドで、令和7年6月と令和8年6月の2回、3つの工事すべてに使われました。どちらも工事会社からの請求によるもので、市は国の労務単価の引き上げ(令和7年は約6%、令和8年は4.5%)を理由に挙げています。
| 工事 | 時期・議案 | 理由 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 建築 | 当初契約 | 14億7,400万円 | |
| 建築 | 令和7年6月 議案第30号 | インフレスライド | +3,170万2,000円 |
| 建築 | 令和7年9月 議案第50号 | 盛土材の土壌調査 | +528万5,500円 |
| 建築 | 令和8年6月 議案第35号 | インフレスライド | +357万9,400円 |
| 建築 | いまの金額 | 15億1,456万6,900円 | |
| 機械 | 当初契約 | 4億3,835万円 | |
| 機械 | 令和7年6月 議案第31号 | インフレスライド | +524万7,000円 |
| 機械 | 令和8年6月 議案第36号 | インフレスライド | +511万9,400円 |
| 機械 | いまの金額 | 4億4,871万6,400円 | |
| 電気 | 当初契約 | 4億953万円 | |
| 電気 | 令和7年6月 議案第32号 | インフレスライド | +733万7,000円 |
| 電気 | 令和8年6月 議案第37号 | インフレスライド | +175万5,380円 |
| 電気 | いまの金額 | 4億1,862万2,380円 |
表は横にスクロールできます。金額はすべて議会で議決された契約金額です。
もう一つの増額。
盛土から見つかったもの。
令和7年9月の増額(528万5,500円)は、インフレスライドとは別の理由です。敷地に盛った土から、環境基準値を超える数値が見つかりました。
- 令和5年度建物を建てる前に、土を盛って地面を整える「盛土造成工事」を行いました。
- 令和6年度建築工事に取りかかったところ、使った盛土材から環境基準値を超える数値が見つかりました。市は「一部基準値を超える物質」があったと説明しています。
- 令和6年9月〜令和7年3月埼玉県越谷環境管理事務所と相談しながら、全面的な土壌調査をし、盛土材を取り除いて埋め戻しました。この約7か月、建築工事は止まりました。取り除いたあとの土と水の調査は、基準値以下でした。
- 令和7年6月工事が止まった分、3つの工事の工期をどれも令和8年10月30日まで延ばしました(建築は令和8年3月13日までだったものです)。
- 令和7年9月土壌調査の費用として、建築工事の代金を528万5,500円増やしました。委員会では、いったん建築工事の会社に払い、盛土工事をした会社に負担を求めていくと答えています。
建築工事が止まっていた令和6年9月から令和7年3月のあいだに、国の労務単価は令和7年3月に6.0%上がり、その後、令和7年6月に1回目のインフレスライドが使われました。工事の期間が延びたことと、値上がりの時期は重なっています。
見つかった物質の名前と、基準値をどれだけ超えていたかは、会議録には出ていません。
増えたことより、
増え方を見る。
インフレスライドは、値上がりで工事会社が赤字になり、工事が止まるのを防ぐための仕組みです。工事会社も1%を負担します。増額そのものは、仕組みどおりの動きです。
大事なのは、どの単価で、どの残りの工事に、いくら上乗せしたのかという計算の中身です。市の工事費の変化を、国の単価の動きで説明できる分とそうでない分に分けて見る考え方は、AIで、行政を「起きる前」にチェックする。 にまとめています。