はじまりは、水が最後に行き着いた場所だったこと
昭和22年9月16日深夜、利根川の新川通で、右岸の堤防が約400mにわたって決壊しました。場所は埼玉県北埼玉郡東村、いまの加須市です。 あふれた水は、埼玉県の東部から東京都江戸川区まで、中川の流域を下っていきました。氾濫した広さは約450km²に及びます。
水が都県境にたどり着いたのは9月19日深夜。小合溜に沿った水元桜堤を破って、東京へ入りました。 この桜堤は、いったんは水を食い止めています。その間に、GHQが江戸川の堤防を爆破して水を江戸川へ逃がすことを試みましたが、うまくいきませんでした。桜堤は、その翌日に決壊します。
小合溜をはさんで、東京都葛飾区側には都立水元公園、三郷市側には県営みさと公園が向かい合っています。 氾濫した水が最後に溜まり、都県境を押し破った場所が、いまの三郷市の際でした。 三郷が水とどう付き合うかという問いは、ここから続いています。
- 86人死者
- 1,394人負傷者
- 44,610戸床上浸水
- 34,334戸床下浸水
- 124か所堤防の決壊
埼玉県全体の被害です(行方不明10人、被害を受けた人421,667人)。a href="https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/37621/03-01.pdf" target="_blank" rel="noopener">埼玉県地域防災計画[資料編]<第3編 風水害編>(資料編III-1-1-1 県下に被害を及ぼした台風/1 カスリーン台風による水害)・埼玉県「埼玉県地域防災計画」(最新版の時点確認用)
三郷市域の被害の数は、公開されている資料では確かめられませんでした。当時の彦成村・早稲田村・東和村ごとの浸水の記録は、国・県・市のどの公開資料にも出ていません。 数が要るときは、三郷市史か市の危機管理防災課にあたる必要があります。
外へ出す力は、3倍を超えました
低い土地では、降った雨が自然には流れ出ていきません。川の水位が高いときはなおさらです。だから、ポンプで外へ押し出します。 その力が、この数十年でどれだけ増えたかという数字です。
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三郷放水路〜三郷排水機場(中川から江戸川へ出す)
毎秒 100→毎秒 200m³
昭和54年度に毎秒100m³で暫定の運用がはじまり、平成8年度から毎秒200m³に。主ポンプ5台。
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流域の外へ出す3施設の合計(綾瀬・三郷・庄和)
毎秒 150→毎秒 500m³
平成3年以降の整備で約3倍。綾瀬排水機場 50→100、三郷放水路〜三郷排水機場 100→200、首都圏外郭放水路〜庄和排水機場 0→200(毎秒m³)。
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大場川下流排水機場(三郷市内・県と市の共同事業)
毎秒 20→毎秒 35m³
4号ポンプの増設。事業期間は令和元年度から令和3年度。
「毎秒500m³」は、中川・綾瀬川の流域から外へ水を出す3つの施設を足した値です。流域にあるすべての排水施設の合計ではありません。 たとえば八潮排水機場は、綾瀬川から中川へ移す流域内の排水なので、この合計には入っていません。
排水の力の数字は、国土交通省の資料の2020年3月時点のものです。
出典:国土交通省関東地方整備局 江戸川河川事務所「三郷放水路」パンフレット(2020.3)・三郷市内 県市連携浸水対策事業「大場川下流排水機場4号ポンプ増設」(埼玉県)
同じくらいの雨で、浸水した家は99%減りました
力が増えると、何が変わるのか。国土交通省が、中川・綾瀬川の流域で、ほぼ同じ雨量の2つの洪水を並べています。
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48時間の雨量(流域の平均)
103mm→110mm
昭和54年10月の台風20号が103mm、平成28年8月の台風9号などが110mm。雨は、むしろ約1.1倍に増えています。
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流域で浸水した家
13,107戸→63戸
約99%の減少。資料に速報値と書かれています。
これは中川・綾瀬川の流域全体の数字で、三郷市だけの数字ではありません。 三郷放水路や排水機場は流域のための施設なので、効果も流域の単位で出ます。
令和元年の台風で、三郷放水路はこう効きました
令和元年の東日本台風のとき、三郷放水路と三郷排水機場は、10月12日の夕方から15日の未明まで動き続けました。 このとき外へ出した水は32.7百万m³で、中川の流域に降った雨の約2割にあたります。
- 17時間氾濫危険水位を超えていた時間が短くなった(21時間 → 4時間)
- 約15cm水位が低くなった(4.37m → 4.22m)
- 約1,500戸浸水したと想定される家(放水路が無かった場合)
- 約110億円想定される浸水の被害額(同上)
この4つは、いずれも三郷市の中の数字ではありません。時間と水位は、上流の吉川市にある中川の吉川水位観測所の値です。 家の数と被害額は、流域内の値です。
どれも「もし三郷放水路が無かったら」という計算との比べ合わせです。 資料も「実際の浸水被害等とは異なります」と書いています。実際に起きた被害を引いた数ではありません。
20年かかる整備を、3年でやった事例があります
三郷市の中を流れる大場川では、県と市が共同で整備を進めました。川の改修は県、下水道やポンプは市、と分かれている仕事を、一つの事業にまとめたやり方です。
- 3年整備にかかった期間(従来のやり方なら20年以上)
- 10分の1かかった費用(従来のやり方と比べて)
- 約6割家の浸水が減るという推計
「従来のやり方」とは、1時間に50mmの雨に備えるために、川を約5km改修してポンプを8基置く場合のことです。 浸水が約6割減るという推計は、平成25年10月の台風26号の雨を大場川の下流域にあてはめた計算です。
この排水機場のポンプは昭和57年度に置かれたもので、古くなったため平成26年度に更新を終えています。その上に、4号ポンプの増設が乗っています。
出典:三郷市内 県市連携浸水対策事業「大場川下流排水機場4号ポンプ増設」(埼玉県)・埼玉県議会 平成27年6月定例会 一般質問 質疑質問・答弁全文(山下勝矢議員)
令和8年8月末の時点で、どこまで進んでいるか
国・県・市は「中川・綾瀬川緊急流域治水プロジェクト」として、三郷市の中の対策を10項目に分けて進めています。 江戸川河川事務所が出している進み具合の資料から、三郷市の分をそのまま並べます。
- 高州小学校の雨水貯留施設100%
校庭の下などに雨をためて、川へ出る量と時間をずらします。
- 大場川水門の弾力的運用100%
雨が降る前に水位を下げておき、ためられる量を増やす運用です。国と市。
- 既存の調整池などの弾力的運用100%
市内各所。同じく、あらかじめ空けておく運用です。
- 調整池の浸水対策の検討100%
幸房調整池とインター南調整池。
- 下第二大場川の改修95%
あと少しで終わります。
- 排水ポンプ施設の中央監視と遠隔操作80%
市内各所のポンプを、離れた場所から見て動かせるようにします。
- 排水路の整備40%
令和8年度に工事をする場所の進み具合です。
- 栄調節池の弾力的運用20%
県と市。
- 戸ヶ崎地区の排水ポンプ施設10%
これからの工事です。
- 高州地区の雨水貯留施設10%
県と市。
このほか、令和6年度には道路が冠水しやすい場所に小型の浸水センサーが置かれ、令和7年度にはドローンを使うための協定が結ばれました。 流域全体の「流域水害対策計画」は、令和7年3月に作られています。
出典:中川・綾瀬川緊急流域治水プロジェクトの進捗状況(三郷市)【R8.8末時点】/国土交通省関東地方整備局 江戸川河川事務所・プロジェクトの進捗状況(江戸川河川事務所)
みんなの防災プラザみさと
鷹野3丁目に、防災を学べる施設が建っています。名前は公募で決まりました(応募は113件)。 防災VR体験ルーム、減災学習ルーム、防災コミュニケーションテーブルを備える予定で、災害のときは避難する場所としても使われます。 鉄筋コンクリート造の2階建て、延床面積は2,175.34平方メートル。令和8年度の当初予算での事業費は445,000,000円です。
工事の進み具合は令和8年3月末の時点で約60%。開館は令和8年度中の開館予定で、何月に開くかは、2026年10月8日の時点では市から発表されていません。
出典:(仮称)南部地域拠点防災コミュニティ施設の名称が決定しました!/三郷市公式サイト・みんなの防災プラザみさとの整備について/三郷市公式サイト・ホーム/三郷市公式サイト(Movingみさと)・令和8年度当初予算 主要事業(三郷市)・みんなの防災プラザみさと整備の進捗状況について/三郷市公式サイト
強くなったのは「内水」。「外水」は別の話です
ここまでの数字は、降った雨が外へ出ていかずに溜まる「内水」の話です。大きな川の堤防が破れる「外水」は、別に考える必要があります。
三郷市は自分の公式ページで、こう書いています。
市内のほぼ全域が利根川、江戸川、中川、荒川の浸水想定区域に指定されている
そして、利根川の堤防が決壊したときの想定は、カスリーン台風のときより大きくなっています。 東京都の資料は、昭和22年に実際に起きた氾濫と、いまの条件での計算を並べています。
- 約60万人→約230万人浸水する範囲の中にいる人
- 約70億円→約34兆円被害額
この2つは、条件をそろえた比べ合わせではありません。左は昭和22年に実際に起きたことの記録、右はいまの条件での計算です。 堤防が破れた場所も同じではなく、左は右岸134.4km、右は右岸136kmです。被害額も、昭和22年当時の金額と、いまの金額を並べたものです。
それでも、守るべき人と暮らしが増えた分だけ、一度あふれたときの重さは増しているということは言えます。
埼玉県も、水害の記録をまとめた資料の中でこう書いています。
河川改修がある程度進んだ近年においても、新たに市街化された地域を中心に被害が生じている
排水の力は増えました。その上で、逃げ方と備えは、別に用意しておくものです。
出典:治水の必要性(八ツ場ダム)/東京都都市整備局・首都圏における大規模水害の被害想定結果の概要(内閣府・中央防災会議)・県内において過去に発生した主な水害(埼玉県)・要配慮者利用施設の避難確保計画の作成について/三郷市公式サイト